娘を支配しようとする母親との戦いを描いた『母がしんどい』、夫にキレてしまう自分ととことん向き合った『キレる私をやめたい~夫をグーで殴る妻をやめるまで~』など、今を生きる女性の悩みに寄り添う著作を次々と発表する、漫画家の田房永子さん。

 新作は、自分の外見を受け入れ、自分の姿をたまに好きになれるまでを描いた『いつになったらキレイになるの? ~私のぐるぐる美容道~』。ありのままの自分を受け入れられるようになった過程を伺いました。


「安めぐみになりたい」自分を受け入れる

――田房さんは、もともと美容やメイクにすごく興味があったわけではないそうですね。

 そうですね。自分なりの好きなものやファッションはありましたが、みんなが基本としてやっているようなメイク術をあんまり知らなかったです。

 この本を描いている時期に、40代向けのメイク指南を見てみたら「私たちの世代が若いときの定番はこうだったけど、今は違うんです」みたいな説明があって、そこで初めて「みんなそうやってたんだ!」と知るようなことが多くて。

 高校生のときにコギャルの子にビューラーの使い方を教えてもらったり、20歳くらいのときに友達に眉毛の整え方を教えてもらったりしたんですけど、そのときすでに周りはみんなしっかりメイクをしていてだいぶ遅いほうでした。

――もともとメイクに興味があってしっかりやってきた人は、適切な情報の探し方や新しい知識を手に入れるためのノウハウのようなものを持っていると思います。一方で、やってこなかった人間はそれがわからない。この本を描かれていた時期、どうやって情報収集をしていたのでしょう?

 YouTubeをすごく見てましたね。YouTubeって、本当になんでもあるんですよ。それに最初に気づいたのは、肩こりがひどいけどマッサージに行く時間がなかった時期でした。

 YouTubeを検索していると、「ここの痛みを解消する」「ここのコリをほぐす」という動画がめちゃくちゃたくさんあって。それも、部位がピンポイントなんですよね。

 動画を投稿している人たちも「まだこの部位は誰も扱ってない」というのを見つけて開拓してるんだと思います。だからどこか痛いときにYouTubeを検索すると、必ず何かしらあるんです。

 それでいろいろ見ていたから、そのノリでメイクについてもすんなり受け入れられたところがすごくありました。急にメイク雑誌を読んで新しいことを始めるんじゃなくて、顔もあくまで体のことのひとつとしてとらえられた感じです。

 今振り返ればですが、肩こり解消の動画を見る延長線上でメイクも「あ、これやってみよう」と思えたのかな、と。

――YouTuberのとうあさん(3人組YouTuber「ウチら3姉妹」のメンバー)の動画に衝撃を受けたと書かれていましたね。

 とうあさんの動画を初めて観たときは衝撃的でした。メイクって、私の中では嘘をついているような感覚があったんです。スッピンが本当の顔であって、それに対して余計なことをする感覚というか。

 昔は化粧品自体のクオリティが今ほど高くなかったからなのか、化粧がよれていたり崩れたりしてしまってる人がいましたよね。

 大人の女性たちの、アイラインの線だけ変に残っちゃってたり口紅がコップにべったり着いてたり、そういう記憶がすごくあった。それを見て育ったから、「化粧してあんなふうになるんだったらやらないほうがいいな」みたいな感覚があったんですよね。

 でも、とうあさんやぺえさん、渡辺直美さんのように、自分より全然若い人たちのメイクとの関係性を見せてもらって、まったく考え方が変わりました。

――本では「安めぐみになりたい」と思い立って試行錯誤したり、「40代に推されてるメイクは全部石田ゆり子を目指している」と戸惑ったり、「なりたい外見」について思考をめぐらす過程も書かれています。10〜20代の頃は、「なりたい顔」を考えたことはありましたか?

 全然なかったです。多分、自分の顔がどう見えるかよりも、ほかのことを考えてたんだと思います。たとえば、すごく可愛くて男性に受けるタイプの友達と一緒に遊びに行ったりすると、男性から明らかに彼女と自分で違う対応をされたりすることはありました。

 でもそこで、「私もこういうふんわり系の見た目になろう」とは思わなかった。それよりも「この人はなぜ見た目で露骨に女性を区別するのか」って、男性の個人差に興味が湧くタイプでした。

 むしろ、30代で子どもを生んでからのほうが「安めぐみさんみたいになりたい」とか「私もコンサバ系の格好しなきゃ!」とか急に思ったりしました。でも、やっぱりできないんですよね。形状記憶みたいにもともとの方向に戻っていってしまって。

2022.08.01(月)
文=斎藤 岬