BL漫画を読みふけってうっとりする様が、輝いてみえた。映画『メタモルフォーゼの縁側』の、 芦田愛菜と宮本信子のことです。好きなことに夢中になっているとき、人はこうなるんだよね。 映画化に関してキャストが発表されたとき、すでに優勝じゃん……と思ったけど、実際にスクリーンで観たら大優勝でした。

 映画『メタモルフォーゼの縁側』は、鶴谷香央理の同名コミックを映像化したもの。17歳と75歳 の二人の女性が、共通の趣味である「ボーイズラブ(BL)」を通して友達になり、お互いの世界を広げていく物語。

 主人公・うらら(芦田愛菜)は、人付き合いが苦手でちょっと地味な高校生。シングルマザー家庭で育ち、書店でバイトをしながら家事も分担。“フツウ”の青春をなかなか 謳歌できずにいるなかで、唯一の趣味はBL漫画を読むことだった。そしてもうひとりの主人公・ 雪(宮本信子)は、夫に先立たれ退屈な毎日を送る老婦人。偶然立ち寄った書店で、絵がきれい な漫画を購入したところ、それがBL本だった。たまたま手にとった漫画をきっかけに二人は出会 い、距離を縮めていく。

58歳という年齢差を超えた関係性

 この物語の最たる功績は、うららと雪を友達として描いたところ。本作を説明する際に、「女子高生とおばあちゃんがBLにハマる映画」といってしまうと、説明がどうしても不十分になってしまうから注意したい。「女子高生」「おばあちゃん」「BL」といったわかりやすい記号はみなさんいったん忘れてください! 本作は年齢差のある二人が築く温かな関係性を、ただただじっくり観てほしい作品なので。

 利害を超えて連携する女性同士の親密な結びつきや絆を意味する「シスターフッド」という言葉は、#METOO運動をきっかけに、改めてさまざまな場所で聞かれるようになってきました。女性同士はひとつのイシューに向かって理念を共有したり、共闘できる。このように主に社会問題に対して多く語られる「シスターフッド」だけど、たとえば同じK-POPグループを推している、同じアニメが好き、という趣味を通して結ばれる強固な絆もそれに該当するものだと思います。

 だって、社会から押し付けられる一方的な価値観から逃れるために、ヲタ友と気兼ねなく話し合い、 秘密を共有することで救われることだってあるんですから。

 宮本信子と芦田愛菜が共演すると聞くと、前情報がなければおばあちゃんと孫という関係性をたやすく想像してしまいたくなる。だけど、本作で二人は赤の他人なんです。その場合、今度はもうひとつの発想として「がばいばあちゃん」のように、年配の方が老婆心や知恵袋を十二分に発揮してなにかを教える師弟関係なのかな、とも思ってしまうけど、そうでもない。そこがすごいところ。数々の古典的な関係性のイメージを裏切り、二人は本作で対等な友情関係を築いているんです。しかも演技力も相まって、二人が友達であることにちゃんと説得力があり、どんな年齢差でも仲良くなれるものだよ なと素直に思えてしまうから不思議です。

2022.07.09(土)
文=綿貫大介