井浦新、47歳の「表現」へのまなざし

 「星の子」「むらさきのスカートの女」などで知られる芥川賞作家・今村夏子のデビュー小説『こちらあみ子』が、新鋭・森井勇佑監督によって映画化された。

 自然に囲まれた町で暮らす小学5年生のあみ子。彼女の目に映る世界と周囲の人間をピュアに、かつシビアに描く本作。応募総数330名のオーディションで選ばれた新星・大沢一菜(おおさわ・かな)があみ子役で鮮烈なデビューを飾る。

 尾野真千子と共にあみ子の両親を演じたのは、井浦新。緩やかに壊れていく家族の中で、現実に耐え続ける寡黙な父親・哲郎を見事に演じ切っている。感度を高めてくれる作品を通して、井浦は何を感じたのか。演じること/次世代とのコラボレーションを含め、じっくりと語っていただいた。

太陽のように輝く「あみ子」を父として見守っていた

――今村夏子さんの原作小説も非常に好きなのですが、映画を拝見した際に画面から伝わってくる“豊かさ”に打たれました。あみ子が見る世界の感度の高さといいますか、自然も含めた生命力といいますか……。その場に身を置いた井浦さんは、どう感じましたか?

 映画から物語を味わうのは、僕にとってはもうちょっと先の楽しみになりそうです。

 この作品は、あみ子で始まりあみ子で終わる。自然や生命、周りにいる人の見え方など「あみ子がどう見ているか」が、みんな(観客)が見ている目線になっていくわけです。

 正直、いま本編を観ても「2回撮ったテイクでこっちを使ったんだな。(大沢)一菜が一番いい状態、或いは生々しくいる状態だもんな」と思ったり、僕の目に映っていた一菜の姿が、映画としてどう伝わるのかな、など、そっちの方で頭がいっぱいになってしまう。

 撮影中、現場で作品の醍醐味を味わえたこともあって、僕が参加していないシーンを含め全部が編集されたものを冷静に見て楽しむのは現段階ではまだできないと思います。

 撮影に入る前から、あみ子をだれが演じてどんなことをしていくか――つまりあみ子がどうかですべてが決まる、それをとにかく支え続けたいと考えていました。そんななか、一菜は、現場で本当にあみ子として生きていた。僕は「一菜」と呼んだことは一回もなくて、ずっとあみ子として接していました。

 思い入れといいますか、いまはまだ、(作品を)哲郎目線で観てしまうでしょうね。みんなの目にどう生き生きと、意気揚々と一菜/あみ子が映るのか? ただ、そうした“身内”の感覚を抜きにしても、この作品に映っている一菜は太陽のように輝いていました。

2022.07.06(水)
文=SYO
撮影=山元茂樹
ヘアメイク=NEMOTO(HITOME)
スタイリスト=上野健太郎(KEN OFFICE)