大学生の“脆さ”を描いたテキストに肉体を与えた木竜麻生
2018年公開の映画『菊とギロチン』で主演に抜擢され、数々の映画賞を受賞してから約4年。同作の瀬々敬久監督による映画『とんび』や数々の映画や舞台に出演を続ける俳優・木竜麻生。彼女の最新主演映画『わたし達はおとな』が、6月10日に劇場公開を迎える。
劇作家・演出家として注目を集め、ドラマ『きれいのくに』では脚本・監督を務めた加藤拓也の長編映画初監督作。大学生の男女の会話劇を、生活をそのまま切り取ったようなリアリティで映し出した。デザインを専攻する優実(木竜麻生)は、劇作家志望の直哉(藤原季節)と付き合っていた。そんななか、優実の妊娠が発覚。ふたりの関係が少しずつ変容していく。
大学生活というモラトリアム期を謳歌する無敵感と、突如終わりを告げた際に顔を出す軽薄さや未熟さ。大学生たちの“脆さ”を残酷なまでに暴き出したテキストに肉体を与えた木竜は、現実感と存在感を見事に両立している。その領域に達した舞台裏には、彼女特有の「言葉」への鋭い感性があった。CREA WEBでは木竜のインタビューを前後篇でお届けする。(【後篇】「言葉は発した瞬間に、遠くにいく」俳優・木竜麻生の豊かな「ことば論」)
木竜麻生の“リアリティ”の世界線
――『わたし達はおとな』、終始ぞくっとするくらい生々しいというか、登場人物やセリフの一つひとつに「ある! いる!」の連続でした。
最初に脚本を読ませていただいたときに、私もそう感じました。セリフのニュアンスがすごく細かいといいますか、話し出すときの「えー」や「あー」まで含んだ現代口語的なものが多く、「こういう会話あるよな」と非常に身近に思えました。
今回はリハーサルをしっかりやって、その中でセリフにも修正を入れていく形でしたが、実際に演じているときも現場の皆さんから笑い声が上がっていて。加藤さんの描く人物は、私たちが「身近で生活をしている人だ」と思える。私たち自身とすごく近いまなざしで生みだされた人物なんだと思います。
――話し出しの部分まで脚本に明記されていたのは、驚きです。
かなり細かく明記されていました! それを自然な会話に聞こえるようにしていくのですが、今まであまり経験がないアプローチだったので難しかったです。
――その“生っぽさ”を作り出すためにも、リハーサルを重ねたのですね。
はい。加藤さんが別のインタビューで話しているのを後から読んだのですが、加藤さんがこれまでも一緒にやってきた方も何人かいらっしゃる中で、私が感じているリアリティと加藤さんたちのリアリティの世界線が違うと感じていたそうなんです。
直接言われたわけではないのですが、まずその世界線を共有・理解してもらうことが必要で、そのためにも何度もリハーサルを重ねていった、とお話しされていました。おっしゃる通り、その中で加藤さんの普段のものづくりの雰囲気や共通言語・意識を持つことができていき、リハーサルから撮影までやっていった感じです。
2022.06.06(月)
文=SYO
撮影=今井知佑
ヘアメイク=主代美樹
スタイリスト=神田百実