「仕草ですか……」「そういうのでいいんやけどな」
――それこそ藤原季節さんは加藤組の常連です。何かアドバイスなど受けたのでしょうか。
藤原さんとは今回が初共演でしたが、共通の友人がいるので前から交流はありました。私は「緊張する」という話をしましたが、特別「こうしたほうがいいよ」みたいなアドバイスはなくて。ただリハーサルでも本番でも助けていただきましたし、お芝居の中での不安や思っていることをすぐに相談できる信頼感がありました。
――リハーサルを重ねると、ある種の“鮮度”は失われていくものだと思います。ただ本作を拝見すると、そこで突発的に起こっている感情や反応をすごく感じる。そのあたりのバランスはどのようにキープしたのでしょう。
もちろんリハーサルできっちり詰めてはいくのですが、本番になると照明の方や美術の方がいて、実際の生活空間に近いものを作り出してくれます。その場に立った時にもらうものもありますし、そこで実際に相手とお芝居することで新しい感覚にもなりました。リハーサルでつかんだものプラス、実際の場所に行って、衣装を着させてもらって小道具を使って……そういうものの力を借りながらやっていたような気がします。
また、加藤さんは「なんとなくこういうライン」といった形で道筋を狭めてはくれるのですが、決して提示するわけではなくて。ちょっとずつ狭めてみんなで向かっていく作業の中で最終的に1本の道になって撮るという形でした。
鮮度については私も大丈夫かな? と思っていたのですが、感情に任せるべきところはあまり回数を重ねずに「いいものが撮れた」と思ったら迷わずOKにしてくれたので、ちゃんと見てくれているという安心感がありました。
――たとえばカフェで食べているサンドイッチひとつにしても金銭感覚が透けて見えるというか、画面に映る全てに統一感があるのが素晴らしかったです。だからこそ生活感や人物が立ち上がってくると感じましたが、演じるうえでも大きな助けになったのですね。
それは確実にあると思います。あと、現場に入ってから「仕草の手数を増やしてほしい」と言われて、「仕草ですか……」と頭を掻きながら考え込んでいたら「そういうのでいいんやけどな」って(笑)。ただ「仕草をやろうという意識ではやらないでいい」と言われました。
仕草って、ほかの現場だったらもしかしたら「あんまりやらないでほしい」と言われることかと思いますが、この現場では「どんどん増やしてほしい」かつ「やろうとするのではなくやる」でした。非常に難しいなと感じながら、ただ確かに普段生活して喋っているときに無意識で仕草をやっているよなとも思って。フィクションではあるけど生活と地続きのラインで撮る経験は新鮮でしたし、面白かったです(【つづきを読む】「言葉は発した瞬間に、遠くにいく」俳優・木竜麻生の豊かな「ことば論」)。
木竜麻生(きりゅう・まい)
1994年7月1日生まれ。新潟県出身。2014年に映画『まほろ駅前狂騒曲』で女優デビュー。その後、映画『菊とギロチン』、『鈴木家の嘘』に出演し、第31回東京国際映画祭東京ジェムストーン賞など数々の賞を受賞。
『わたし達はおとな』
2022年6月10日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
出演:木竜麻生 藤原季節 菅野莉央 清水くるみ 森田想 / 桜田通 山崎紘菜 片岡礼子 石田ひかり 佐戸井けん太
監督・脚本:加藤拓也
音楽:谷川正憲
製作:狩野隆也 松岡雄浩 宇田川寧
エグゼクティブプロデューサー:服部保彦
プロデューサー:松岡達矢 柴原祐一
配給:ラビットハウス
(not) HEROINE movies第一回作品 メ~テレ60周年
©2022「わたし達はおとな」製作委員会
公式HP:https://notheroinemovies.com/
2022.06.06(月)
文=SYO
撮影=今井知佑
ヘアメイク=主代美樹
スタイリスト=神田百実