映画『わたし達はおとな』のことばと、木竜麻生のことば
デザインを専攻する優実(木竜麻生)と、劇作家志望の直哉(藤原季節)。優実が妊娠したことから揺らめいていくふたりの関係を見つめた映画『わたし達はおとな』。劇作家・演出家の加藤拓也によるオリジナル作品で主演を務めた木竜の単独インタビューを前後篇で展開中。
後篇では、本作の静謐ながらも生々しい空気感がどのように創出されていったのか、その舞台裏を本人の語りで振り返るとともに、木竜の「ことば論」へと踏み込んでいく。(【前篇から読む】木竜麻生が『わたし達はおとな』でみせた“無意識の仕草”)
「隠す」に込められた静かな情熱
――物陰から観察しているようなカメラ位置も独特ですよね。演者からすると「どこから撮られているかわからない」ときもあったのではないでしょうか。
そうですね。カメラをほぼ意識しないというのもすごく新しかったです。多少はカメラの都合に合わせるときもありましたが、動いているときにはほとんど意識していませんでした。それはカメラマンさんが絶妙なポジショニングで撮ってくださったからこそですが、リハーサル時点でカメラマンさんに入っていただいていましたね。
かつ、加藤さんは、カメラの位置とカット割りがリハーサルと同じになるように準備していました。そのおかげで、私たちはカメラに意識を向けることなくお芝居だけに集中できたんだと思います。初号(作品の完成後、関係者のみを招いて行われる最初の試写)で観たときに「こんな風に撮ってたんだ、こんなサイズ感だったんだ」と思ったくらいでしたね。
――セリフをあまり“立てない”演出もあったのでしょうか。言い回しが非常にナチュラルでした。
そうかもしれないですね。別のインタビューで加藤さんが「木竜さんは普段感情をとにかく出したお芝居を求められるフィールドでやっている方だから、お芝居をしているように見えないところに持っていくために表現することを一回捨ててもらう必要があった」といったことをおっしゃっていました。
リハーサルの最中に印象的だったのは「今回はどれだけ隠すか」と言われたこと。思っていることや、言いたいけど言えない/言いたくないことを表現するために「隠す」が必要で、セリフの中に出すぎている場合は演出が入りました。「意図してセリフを話している」という感覚をなるべく薄くする必要があった気がします。藤原さんはもちろん、皆さん本当にただ会話しているだけに見えてきてすごいなとリハーサルから感じていましたし、すごく勉強になりました。
――とはいえ、文章量が結構ありますからね。
ありました(笑)。ただ、ホンの段階でちゃんとリアリティがあるので、あとはそれを自分たちがちゃんと投げて言葉にしていけばいい。「この中に入れたらいいな」という感覚でした。
2022.06.06(月)
文=SYO
撮影=今井知佑
ヘアメイク=主代美樹
スタイリスト=神田百実