言葉が“力強くない”からこその魅力

――また本作では、時間軸がシャッフルされた構成になっています。すべての現場が順撮り(脚本の順番通りに撮影していくこと)ではないため慣れていらっしゃるかもしれませんが、この形式はいかがでしたか?

 今回は順撮りに近い形が多かったですね。最初のほうに大学の友だちと旅行するシーンを撮れたのが大きかったです。現場によっては自分の想像力を働かせながら埋めていくものもありますが、やっぱり実際に体感して背負っていけるほうがやりやすい。今回はリハーサルも含めて、ちゃんと実感を持ちながらやっていくことができました。

――木竜さん・加藤さん・藤原さんともに93~94年生まれの同世代。ほぼ同い年ならではのやりやすさもあったのでしょうか。

 ありました。言い争いするシーンや朝ご飯を作るシーン、友だちとの「ついていけないことがあっても見栄を張る」みたいな会話も含めて、全体的に「わかる」と思える部分が多くて。ここまで同世代が多い現場はあまりなかったですが、相談しやすい環境でしたし、やりやすかったです。

――木竜さんは谷川俊太郎さん等の詩がお好きで、卒論のテーマも「雑誌から生まれた造語」だと伺いました。言葉への感度が高い木竜さんが見た、加藤さんの言葉の魅力とは?

 なんとなく発した言葉に思ったより感情が乗ってしまったり、逆に隠したいからこういう言い方をする、といった部分もそうですが、言葉と言葉の間に変に“間(ま)”を作らない感じが印象的でした。だからこそ言いよどんだ際の間が引き立ちますし、普段ただ生活している中での話し方や言葉の出し方の感覚を本当によく見ている方なんだと感じます。

――確かに、日常生活で感情をストレートに言葉に乗せて発することって実は少ないかもしれませんね。

 そうですね。普段ホンを読むときは言葉の力の強さを感じることが多いのですが、加藤さんのホンは言葉を信じ切っている感じがしないんです。あくまで、その言葉の内には何があるのか、何を思って発しているかが重要。すごく素敵なホンを書かれる方ですが、言葉を信用しているわけではないのが魅力かなと思います。

2022.06.06(月)
文=SYO
撮影=今井知佑
ヘアメイク=主代美樹
スタイリスト=神田百実