「実は赤が大好きだったと気づいた」

――今の40代以下くらいの世代では、家族間であっても人の容姿に対してマイナスなことを言うのはよくないという認識がある程度共有されていると思うんですが、親世代への対応に困るときがありませんか? 親戚の子どもに対して親世代の人間が軽口のつもりで言っていることに「やめてくれ」と思うことがときどきあって……。

 めっちゃ言いますよね! 本当にびっくりするくらい言う(笑)。我々30〜40代が防波堤状態ですよね。

――そのようなときに、田房さんはどうしているのか聞きたいです。

 参考にならないと思うんですが、私の場合はいったんシカトします。じいさんばあさんは急に投げてきますから、それに対して上手く返せる能力を私は持っていないので応急処置として「聞こえてないふり」をします。子どもに対して「あなたの話じゃないよ」って空気を作ることを優先するんです。

 見た目以外についてもそういうことはあって、例えば走り回るよりもじっと作業するタイプの子どもに対して、今の保育園や学校って「遅い」とか「のろい」とかって言葉は使わない先生が多いんですよね。

 「自分のペースを保っている子です」とか「自分の世界を持っています」みたいな言い方をする。私たち親も同じように子どもに接しているんですけど、そこを祖父母世代が破壊してくるんですよ。本人の前で「遅くてがっかりしちゃった!」って……先生たちは「遅い」の「お」を飲み込んで別の言葉に置き換えてみんな毎日めちゃめちゃ頑張ってるのに、それ言う!? ってなっちゃうじゃないですか。

 同調すると、子どもとの信頼関係よりも祖父母との会話を優先してる状態になってしまうし、「そういう言い方やめてくれる」と親を叱りたくもないから、聞こえないふりが平和かなって思ってます。余裕があるときは、その後で子どもがいない場でフォローします。「最近は『自分のペースを持ってる』とか言ったりするんだよ~」って。

 祖父母世代が持つ感想も間違ってはいないんですよね。そこで「こういう言い方してよ」って教えるんじゃなくて、別の言葉で返していく。それを繰り返していけば、わかっていないかもしれないけどだんだん言いづらい空気になっていくところはあると思います。

――親や親族から子どもの頃に言われたことって、妙に残りますよね。外見に関しても、「あなたはこういう格好は似合わないから」みたいなちょっとした一言が意外と染みついているなと感じるときがあります。なので、本で描かれていた「『赤』はダサいと言われて育ったけど、実は大好きだったことに気づいた」という話が印象的でした。

 私はわかりやすく親に反発して親を否定する作業をしたので、特に極端に出てきてるところはあったと思います。親のことで苦しかったときは、服を買うにも「これを身に着けたとき、お母さんはどういう反応をするか」と考えてしまっていました。

 今はそういうことはなくなりましたね。そこに至るまでには、自分に聞く作業をたくさんしてきました。小さいことであっても、何かを選ぶときには必ず「私は今、誰かに義理を感じてこの選択をしていないか」「本当にこれがしたいのか」と自問自答をするんです。そうするとだんだん自分にピントがあってきて、母の趣味が体から抜けていきました。

 それでも、やっぱり残っているものもあるんですよ。それこそ派手な帽子のように母も自分も好きなものがあって、母の持ち物の中に私が買いそうなものがあったりする。以前だったら「結局お母さんと同じものを好きになってて、ありえない!」となっていたけれど、今は「不思議だねぇ」と面白く感じられるようになりました。

――30代から40代にかけて、外見が変化していく中でどう付き合っていくか、悩ましいことは多いと思います。本を1冊書き上げて、今現在はご自身の外見とどう向き合っていますか?

 今の私は、シワができるのもそんなに怖くないと思ってます。でももしかしたら、たるみに注射を打つのもやりたくなるときが来るかもしれないし、そのときはやってみようかな、みたいな感じの付き合い方ですね。

 今度、“ザ・石田ゆり子”みたいなメイクを教えてくれる教室に行こうと思ってるんですよ。見本で出ているビフォーアフターがめっちゃ面白くて、本当にいかにも石田ゆり子さんみたいになるんです(笑)。

 面白そうじゃないですか。そういうことをやって写真に撮って友達に送って盛り上がったり、そういうのが楽しいなって今は思います。

田房永子

1978年、東京都生まれ。2001年にアックス漫画新人賞佳作受賞。過干渉な母親との確執っを描いた『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)が大きな反響を呼ぶ。『大黒柱の日常』(エムディエヌコーポレーション)など多数。

いつになったらキレイになるの?~私のぐるぐる美容道


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2022.08.01(月)
文=斎藤 岬