本作の主題は旧約聖書の『申命記』から取ったもので、神が石板に十戒の最初の文字を刻むシーン。神を真後ろから見た姿で大きく中央に描いています。赤と黒が基調の背景に神の姿だけ白く塗り残されているため、まるで発光しているようにも見えます。

 では十戒を受け取るモーゼはどこにいるのでしょうか。じつは神の足元に小さくうずくまっているのが彼です。サイズ比を極端にすることで、さらに神の重要度が象徴的に高まります。また、真っ直ぐな線は神の体と十戒が刻まれる石だけで、それ以外は炎のように揺らめく曲線。それでも神が画面の中になじんでいるのは、薄布から透ける神の筋肉の形状が、背景の形状と呼応して統一感を生んでいるからです。

 さらに左右対称構図の随所に、堅さを和らげる非対称の要素がちりばめてあります。たなびく神の髪の毛とゆるめた左足、天使の顔の向き、ところどころに使われる青や黄色など。他にも探してみてくださいね。

INFORMATION

「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」
東京都美術館にて7月3日まで
https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_scotland.html

●展覧会の開催予定等は変更になる場合があります。お出掛け前にHPなどでご確認ください。

2022.06.25(土)
文=秋田 麻早子