4月26日(土)から代官山ヒルサイドフォーラムにて、写真家である山田耕熙の大規模個展が開催される。

 タイトルは「Nahar ― Ranthambhore(ナハール ランタンボール)」。インドのランタンボール国立公園に生息する野生のロイヤルベンガルタイガーたちをとらえた写真展だ。

 山田が8年近くにわたって現地に通いながら撮影した中から選りすぐりの130点以上の作品が、5つの章に分けて展示される。


第1章「気配の先に」

 展示は「気配の先に」と題した第1章から始まる。

 この章では真っ暗な早朝からジャングルに分け入っていく時の張り詰めた緊張感をはじめ、虎の残した足跡やその気配を感じてざわめく動物たちなど、ジャングル全体の繋がりやうごめきまでを写真で表現する。

「動物たちが虎を警戒して発する鳴き声はアラームコールと呼ばれていて、周囲の動物たちに身の危険を知らせるものです。一匹の動物が鳴くとそれを受けてほかの動物たちも鳴き始め、連鎖してこだましていく。その反響を通してジャングルのつながりや一体感を感じられます。

 そして、我々にとってその鳴き声は虎の居場所を知る手がかりでもあります。この章では、虎ではなく、鳴き声を発するほかの動物たちの姿などを通して、森の象徴である虎という存在を表現することを試みてみました」(山田氏)

第2章「今を生きる」

 第2章は「今を生きる」。ひとつの命が目の前で消えていく瞬間や、弱いものが圧倒的に強いものに対して命をかけて立ち向かっていく姿など、そんな写真を通じて山田は私たちに「生きること」とは何なのかを問いかける。日常生活では意識することのない「命が消える瞬間」を写真を通して見ることで、改めて“生”というものを考え直す。

「取り込む命と取り込まれる命の両方を写真として残したいと思いました。自分の居場所をかけて真剣勝負に挑む、その凄みや迫力は一度目にすると一生忘れられないほど鮮烈です。そんな野生動物たちの姿を撮影しながら私がいつも感じているのは『なんのために自分は生きているのか?』ということ。そうした感情を観ていただいた方にも感じとってもらえたらと思います」(山田氏)

第3章「際に立たされた存在」

 第3章は山田が2020年に日経ナショナルジオグラフィック写真賞ネイチャー部門で最優秀賞を受賞した時の6枚の組写真で構成される。「際に立たされた存在」と題したこの章では、生態系の頂点にいる野生の虎が、一方で絶滅の危機にあるという現状を図らずも知ることとなる。

「森林伐採や密猟によって野生の虎の数は世界中で残り4000頭足らずと言われ、絶滅の危機に瀕しています。虎は森の象徴で、その虎が生きられなくなってきている現状を写真に収めながら思うのは、この地球上から消えつつあるのは、果たして虎だけなのか? 実は我々人間にとっても、生きていくことが難しくなる世界が近づいているのではないだろうか? という想いです」(山田氏)

2025.04.18(金)
文=石川博也
写真=山田耕熙

CREA 2025年春号
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韓国のすべてが知りたくて。

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