第4章「ランタンボール 虎と生きる世界」


続く第4章では「ランタンボール 虎と生きる世界」と題し、国立公園に生息する虎をはじめ、野生動物たちと人間が共存するために必要なことは何か、現地ではどのようにして取り組みがなされているかなどを映像作品で表現する。人と自然は切り離されたものではなく繋がっているということがよく分かる展示となっている。
「現地ではサファリの産業構造ができあがっています。虎は観光資源であり、世界中から多くの人が虎を観に訪れることによって、現地の人たちにとっての雇用が生まれ、インフラが整備され、物流網などが整備されていきます。年間で100億円規模の経済効果があるのです。だからこそ虎は現地の人にとって、“必要な存在”として受け入れられ、人間と共存することができている。そんな現状を映像によって表現したのが、第4章です」(山田氏)
第5章「100年先まで残す景色」

そして、「100年先まで残す景色」と題された最終章。語られるのは、虎を個体識別しているランタンボールだからこそ追える家族の物語。クリシュナと呼ばれる伝説の雌虎の子孫たち。厳しい現代を生きるその家族の姿は、まさに山田が未来に残していきたいと思う景色だ。
「虎の血筋を正確に把握することができて、特定の家族の物語を追うことができるのは、世界でもランタンボールだけです。すべての虎はストライプ柄によって識別が可能です。名前をつけられている個体も多くいるので、撮影対象として感情移入がしやすい。ちなみに名前はエキスパートガイドや現地の森林局の方がつけたりするほか、長く撮影する写真家たちがつけた名前がそのまま定着した例もあります。私は、現地で伝説の虎であるクリシュナという雌虎の系譜を中心に、家族の思い出を残すような感覚で虎たちの何気ない日常を撮影してきました。
例えば、生まれた虎がどのように成長して母親になっていくのか? 子どもの虎が独立する時には親子の別れもあります。そういうシーンを見るとものすごく引き込まれますし、切なくなります。虎たちが懸命に生きる姿を、自分の大切な人の姿と重ね合わせて見てもらえたらと思います」(山田氏)

すべての作品を観終えるころには、山田が語る「人と野生動物たち、一緒に未来へ」という想いに共感するだろう。「Nahar ― Ranthambhore」は、自然へのまなざしが変わるきっかけとなる写真展となっている。
山田耕熙(やまだ・こうき)

1979年生まれ。南極、北極、アラスカ、ガラパゴス諸島などに旅し、多様な自然環境と野生動物を撮影。2020年に第8回日経ナショナル ジオグラフィック写真賞ネイチャー部門最優秀賞受賞。「人と野生動物たち、一緒に未来へ」をテーマに、近年はインドのランタンボール国立公園に生息する虎に魅了され、その姿を追い続けている。主な出版物に、Photo Folio『The Land of Tigers』(2022年)。展覧会の作品を含め、近年の作品をまとめた大型写真集『Nahar ― Ranthambhore』を出版予定。
山田耕熙 写真展「Nahar ― Ranthambhore(ナハール ランタンボール)」
会場 代官山ヒルサイドフォーラム
所在地 東京都渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟1F
会期 2025年4月26日(土)~5月17日(土)
開場時間 10:00~20:00(最終日は17:00まで)
休廊日 無し
料金 無料

Column
CREA Traveller
文藝春秋が発行するラグジュアリートラベルマガジン「CREA Traveller」の公式サイト。国内外の憧れのデスティネーションの魅力と、ハイクオリティな旅の情報をお届けします。
2025.04.18(金)
文=石川博也
写真=山田耕熙
CREA 2025年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。