アダムとエバの原罪
中村 1章で神は「男と女に創造された」とあるのに、なぜ2章ではアダムの肋骨の一部を抜き取って女を造り、「エバ」と名付けたとなっているのかな。
佐藤 これはジェンダー論ですごく重要なところです。1章のように男と女が一緒に創造されたなら、男と女は平等といえる。でも2章だと、女は男の従属物になってしまう。明らかに男権主義です。
中村 二通りの読み方ができるのは、聖書を編纂するときに異なる二つの文書を合体したから?
佐藤 おそらくそうです。
中村 アダムとエバは蛇にそそのかされて禁断の木の実を食べる。そして、「原罪」を背負うわけだけれど、昔、この原罪とはセックスのことだと教えられたの。でも、それは違うと思う。彼らが最初にしたことは、自分たちの性器を隠すことだった。他者から性器を見られることを恥じた……それは「他者の視線と自意識」の獲得を意味すると思うんです。
佐藤 うさぎさんの持論ですよね。
中村 神が禁じたのはセックスではなく、それを恥ずかしがって他者の視線から隠す「自意識」だったんじゃないのかな。
佐藤 その原罪を背負ってエデンの園を追放されたアダムとエバの間には二人の息子が生まれます。
中村 カインとアベルね。兄カインが捧げた農作物は無視し、羊飼いの弟アベルが捧げた羊の初子にだけ神は目を留める。
佐藤 神の仕打ちに怒ったカインはアベルを殺してしまうんです。
中村 なぜ、神はそんなことを?
佐藤 要するに神様の評価は気まぐれで勝手なものだ、それに対して文句をつけるな、という話です。
中村 「不条理であるからこそ神である」という佐藤さんの持論ね。しかし、人類初の殺人が、野望でも快楽でもなく、嫉妬によるものだったというのは面白い。
佐藤 殺人の罪を犯したカインは追放され、エノクという町を作る。町というのは悪の集まる場所で、後に出てくる「バベルの塔」や「ソドムとゴモラ」の話につながっていくんです。
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2013.09.29(日)