「演技の経験が浅いので心配していましたが、カメラが回るとスッと役に入っていた。この子はすごい女優になるなという予感がありました。憂いを帯びた表情とパッと明るい笑顔の落差が印象的で。JR東海のCMで、当時15歳の深津絵里さんを起用した時に感じた手応えと同じでした」
黒島がショックを受けたこと
「カムカム」ヒロイン・深津の若き日を彷彿とさせた黒島。ドラマ出演も増え始めた14年6月頃、沖縄を離れ、東京の高校に転入する。15年3月に卒業後、趣味の写真を生かし、日本大学芸術学部写真学科に進学。学業との両立を志したが、18年に大学を中退した。
「当時の黒島さんには『私が女優を名乗っていいんだろうか』という雰囲気がありました。どこか場違いなんじゃないかと思っているように映って、それが好もしかったんです」
そう振り返るのは、映画「カツベン!」(19年公開)の周防正行監督だ。無声映画が人気だった大正期の活動弁士をテーマにした同作。100人を超えるヒロインオーディションで、周防氏は黒島にこんな言葉をかけた。
「もし、女優を辞めて他にやることを見つけたら、その時は一報下さい」
そこにはどんな意味を込めていたのか。
「自分の人生を真摯に考えている印象があった。もし違う道に進んだのなら、どういう理由か聞いてみたかったんです。彼女は『はい……』と言っていた。でも、劇中のヒロインも悩みながら女優を目指していく役。黒島さんの悩める姿と重なって起用を決めました。印象的だったのが、活弁の掛け合いのシーンを撮っている時に『大丈夫ですか?』って聞かれたんですね。僕は『大丈夫にするから』と返したらしくて、それが結構ショックだったみたいです(笑)。撮影では苦労もしていたけど、少しずつ階段を昇っていました」(同前)
“NHKご用達女優”と呼ばれるまでに
この作品で、黒島は日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。授賞式では「初めて役を通して自分のことを自分で受け入れられたような作品」とスピーチした。
以降、映画のほか、大河「いだてん」、朝ドラ「スカーレット」などへの出演を重ね、“NHKご用達女優”と呼ばれるまでに。そして、今作で朝ドラヒロインへ上り詰めたのだった。
「『ちむどんどん』を見て、女優を続けることにしたんだなと、嬉しく思っています。彼女はナチュラルなところが魅力的。既に沢山の作品に出ているのに、あまり色がついていないので、どんな役にも飛び込める。朝ドラでの溌剌とした笑顔も素敵ですし、今後どんな役者になっていくか、本当に楽しみです」(同前)
黒島の将来が「ちむどんどんしてきた〜!」。
2022.06.09(木)
文=「週刊文春」編集部