映画『耳をすませば』を作る時、参考にしたのが、イギリス人が撮ったドキュメンタリーでした。日本の中学生に密着した内容で、彼と「イギリス人が撮るとこんなに面白くなるんだ」と感動しました。ジョンも間違いなく素晴らしい作品を作ってくれると思っています。

夏木 ジョンとは『レ・ミゼラブル』(1997・98)のマダム・テナルディエ役で出演して以来のお仕事ですね。

ジョン 第一印象は狂った女……ジョークですよ(笑)。

夏木 役柄にあわせてトゥーマッチメイク(厚化粧)して稽古に現れてね。ジョンがビックリしたことを覚えています(笑)。

ジョン マリさんはとてもチャーミングでアイディアマンでした。すごく楽しかったです。

油屋という劇場空間

鈴木 僕も夏木さんとの初対面は鮮烈でした。まるで昔から知っているかのようにタメ口で話しかけてこられて。気が付くとこちらもつられてタメ口で喋っていました。すぐに心を掴まれちゃいましたね。

夏木 お褒めのお言葉、ありがとうございます。

 原作では、少女・千尋が、八百万の神が訪れる湯屋「油屋」の世界に迷い込み生きる力を呼び醒ましていく。夏木氏は映画と同じく、油屋を支配する魔女の湯婆婆とその双子の姉銭婆を演じる。

ジョン 映画はとても演劇的ですよね。

夏木 私も、初めて映画の台本を読んだ時、シアター(演劇)の台本みたいと思ったんです。舞台演出できる要素がけっこうあるなって。

 ジョンも、映画を観て絶対舞台にしたいと思ったでしょ?

ジョン すぐにやりたいとは思いませんでした。小説と比べて映画原作の舞台って稀で。ましてやアニメの舞台化はそれほど成功している印象がなかったですから。

 きっかけは、東宝のプロデューサーから帝国劇場で何かショーをやらないかというお話をいただき、日本色の強いお話をやりたいなと考えたことからでした。日本の舞台作品って家族劇が多い。帝劇の大きいスペースを満たすような、スケールの大きい話がなかなか見当たらなかったんです。そんな時、『千と千尋』の油屋がある! と。

2022.04.03(日)
文=「文藝春秋」編集部