鈴木 会見での写真撮影でどのカメラを向けばよいのだろうかと、キョロキョロしていたら、環奈さんが「あのカメラに向かって笑うんですよ」と親切に教えてくれました。
ジョン それは確かにお母さんみたいですね(笑)。
カオナシの裏話
鈴木 ちなみに、湯婆婆のモデルはというと……僕なんです。
夏木 ジブリの湯婆婆なんですよね(笑)。宮﨑さんから言われたことをよく覚えています。
「スタジオジブリには、鈴木敏夫という人間がいる。お金の勘定をしている。特定の人にとっては悪く見えるけど、一生懸命仕事をする人間なので、湯婆婆も一生懸命仕事をして、湯屋を守ってください」と。
鈴木 その通り、ジブリも油屋みたいなもんですからね。
ジョン マリさんがおっしゃるように、湯婆婆は善とか悪で切り分けられないのが魅力です。彼女の経営する油屋は危険なところなんだけど、それと同時ににぎやかで生き生きとしていて、楽しみもある。だからこそ、お客様である神々がいっぱいやって来るんだと思います。
夏木 そう、単なる魔女じゃなくビジネスの才能もあって坊に対してはすごく母性が出る。いろんな一面があるから演じ甲斐がありました。
鈴木 宮さん本人が完璧な人物ではないですからね。気が付けば45年位付き合っていますけど、いつもいい人ってわけじゃないもん(笑)。自分の不完全な部分も認めているから、どの話も単純な善悪の二項対立、勧善懲悪にはならないんです。
ジョン どの登場人物も型にはまってなくて、いろんな顔を持っていますよね。とりわけ、カオナシ(黒い影のような体にお面らしきものをつけたキャラクター)は非常に興味深いです。
単なる「黒くて怖いもの」ではない。最初は、雨が降る中、誰からも無視され油屋に入れてもらえず、そんな孤独な様子がとても可哀そう。それが自分の身体から金をたくさん生み出した途端、油屋の従業員が「お得意様」としてもてなすようになる。そして、料理を貪り食いまた金をバラまき、自制を失っていく??。人間の強欲さ、キャピタリズム(資本主義)の象徴といえますが、その一方で心優しくて共感できる部分もある。とても人間的な奥深さを感じます。
2022.04.03(日)
文=「文藝春秋」編集部