鈴木 カオナシって最初は名前すらなかったんですよ。それが、制作に行き詰った時、宮さんが「橋の欄干で神様に混じっていたやつで何かやる?」と言って、油屋で大暴れする話を思いついたんです。それは面白いと思って、僕は宣伝でもカオナシを前面に押し出した。すると、宮さんが「なんでカオナシで宣伝しているの?」と不思議がっている。「だって、千尋とカオナシの話でしょ」と言ったら呆然としていました。宮﨑駿が天才たるところで、全ストーリーを自分が支配していない。だから、彼の口癖は「なんでこうなったんだろう」なんです。

夏木 鈴木さんと宮﨑さんの関係って面白いですよね。

鈴木 狐と狸の化かし合いみたいなもんです(笑)。

ジョン そういえば、僕と鈴木さんは同い年なんですよね。

鈴木 そうそう。僕が1948年8月生まれでジョンがその1カ月後生まれ。

ジョン 何が言いたいかというと私たちは湯婆婆と銭婆です(笑)。

夏木 宮﨑さんと初めて会った日のことは忘れられない思い出です。宮﨑さんは会うなり、目の前で線画を描きはじめられて。「ちょっと声を聞かせて」とおっしゃるから、なんだろうと思っていたら、最初に湯婆婆が次に銭婆が出来上がったんです。それで「双子にしちゃお」と、おっしゃる。まるで私に合わせて湯婆婆を描いてくれるような錯覚になって非常に興奮する瞬間でした。

ジョン それは羨ましい!

舞台版湯婆婆は2頭身?

鈴木 最初は湯婆婆と銭婆は別々の顔だったんです。

ジョン そうなんですか!?

鈴木 当初は、銭婆は湯婆婆の背後にいるさらに強い魔女で、千尋はハク(湯婆婆の下で働く謎の美少年)の力を借りて2人でやっつける??そんな冒険活劇にしようとしていました。ただ、それだと3時間の大作になってしまうから「同じ顔でいいか」って(笑)。それで双子になったんです。

夏木 これから稽古がはじまりますが、一体、どんな舞台が出来上がるのか。ジョンの頭の中にあることだからまだ何もわかりません。

 私がやっぱり一番気になっているのは、湯婆婆の出で立ち。映画と同じく2頭身なのでしょうか?

《重要じゃないからカットします》舞台「千と千尋の神隠し」で英国スタッフが削除しようとした重要シーンの“西洋的解釈” へ続く

2022.04.03(日)
文=「文藝春秋」編集部