防災を考え、備えることは、優しさを引き出すこと

――お話を伺っていると、事前の情報収集が本当に大切だということがわかります。

 大正解です。私たちができることは、災害時にはほとんどないですから。完全な準備は無理だとしても、しっかりした情報収集と、自分たちにフィットした避難計画を立てておくことが重要になってきます。

 もう一つ大切なのは、防災を「自分ごと化」すること。

 一般的な防災の心得を読みまくっても、自分にあてはまらない情報だと、なかなか自分のこととして落とし込めないものだと思います。

 けれど、これまでお話しした「モノ」「情報」「健康」の3つのポイントをノートに書き込むなど、何か手を動かしてチェックをするだけで、「自分ごと化」されます。人は、自分で能動的にアクションを起こすことでそれを「自分ごと化」でき、他の人にも語れるようになるものなんです。

 自分で書いて可視化することで、その内容が自分のものになりますし、それを家族や周囲の人と共有することで、いざというときに役に立ちます。先ほどの「あかちゃんとママを守る防災ノート」をダウンロードして活用していただいてもよいですね。

――頭ではわかっていても、忙しくてなかなか実行できない人も少なくないかもしれませんね。

 子育て世代って日常が非常事態ですから、「そんなに準備する余裕なんてない」と後回しにしてしまいがちかもしれません。確かに防災にはある程度お金も労力もかかりますが、できるだけ備え、子どもたちにも避難計画をきちんと教えておけば、自分自身も子どもも安心できます。

 周りの人たちとも共有することで、人ともつながっていきます。軽い挨拶でも、立ち話でも、そのささやかな絆が、普段の何気ない生活を潤してくれるとともに、いざというときの支え合いに結びつくことがあるんです。

 実は、私自身も東日本大震災までは、災害なんて自分にはまったく縁がないものだと思っていました。でも、「これは自分のことかも」と災害を想定してみると、当たり前の日々の尊さに気づいたり、優しい気持ちが生まれたりするものです。

 「もし……」を考えることで、家族や友だち、何気ない生活がすごく輝いて見えて、ますます日常が愛おしくなっていく。それを引き出してくれるのが「防災意識」だと思います。

●防災について考えるきっかけをくれるショートムービー

 吉田先生が制作に携わった、東京に暮らすある家族の6年の日々を1分間に凝縮したショートムービー。ひとりの女性が、はじめての出産・子育てを通して、かけがえのない時間を発見していく。しかし、長男の小学校入学を前に、思わぬ出来事が待ち受けていた。

●お話を伺ったのは……
吉田穂波(よしだ・ほなみ)さん

医師・医学博士・公衆衛生学修士。博士号を飛び級で取得後、ドイツとイギリスで産婦人科および臨床に携わる。帰国後は産婦人科医療と総合医療両方の視点を持つ女性総合外来担当医となる。2008年にハーバード公衆衛生大学院にて公衆衛生修士号を取得。帰国後、国立保健医療科学院、神奈川県保健福祉局保健医療部などを経て、現在は神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授として勤務するとともに産婦人科診療に従事。2020年の厚生労働省新型コロナウィルス感染症対策保健所支援チームではリーダーとして国内の感染拡大予防に尽力。4女2男の母。『「つらいのに頼れない」が消える本――受援力を身につける』『実践! 小児・周産期医療現場の災害対策テキスト』など著書多数。

「つらいのに頼れない」が消える本――受援力を身につける

あさ出版 吉田穂波 1300円

受援力とは、「助けを受け入れ、人に頼ることができる力」のこと。誰かに頼りたいけど頼れない、相手の迷惑になるのではないか……など、人に頼れない人は、頼ることを申し訳なく思ってしまうもの。しかし、むしろ人に頼ることが、相手のためにも自分のためにもなる、すばらしいことだとしたら――。人に頼ることの素晴らしさや人に頼れない理由、受援力を身につけるトレーニング法などを分かりやすく紹介。

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