ここ数年で日本を取り巻く気候は大きく変わり、台風や豪雨など甚大な自然災害が多発しています。コロナ禍の中で災害が起こったら……。そして高齢者を連れて避難することになったら……。いざというときのために、私たちはどう備えたらよいのでしょうか。

 今回は、日本の防災学の第一人者として内閣府中央防災会議のワーキンググループの委員を務めた、東京大学大学院特任教授 片田敏孝先生にお話を伺いました。

避難とは「難」を「避」けること、避難所に行くことだけが避難ではない

――先日CREA WEBで実施した防災に関する読者アンケートでは、災害が発生して避難が必要になったとき、祖父母や両親などの高齢者と一緒に迅速な行動ができないのではないか、といった心配の声が多く聞かれています。片田先生はどのようにお考えですか?

 そうですね。高齢者の方々の避難の問題というのは、日本の防災においての“一丁目一番地の問題”といっても過言ではないと思います。というのも、毎回、自然災害で犠牲になっておられる方々の大半が、高齢者を中心とした要配慮者の方々だからです。

 防災において一番大切なことは、犠牲者を出さない、ということ。そんな中で犠牲者が要配慮者で占められているという現実は、解決を急がなければならない重要な課題の一つです。

――まずは行政からの避難勧告や避難指示に従って避難所に身を寄せることになると思うのですが、新型コロナウイルス感染防止対策を心配される声も多いです。

 避難というのは、読んで字のごとく、「難」を「避」ける行動のこと。一方で避難所は多くの人が集まる場所ですから、完全に感染防止対策が図れるのか、本当に難を避けられるのか、心配されるのも当然です。

 ただ、いくらコロナのリスクが慢性的に存在しているからといって、自然災害という“急性の病気”が生じたら、それに対応しないと命取りになりかねないですよね。感染リスクにかかわらず、いざというときにどう行動すべきか、一人ひとりがあらかじめ考えておく必要があります。

 まずは住んでいるエリアのハザードマップを見て、身の周りでどんな災害が起こる可能性があるのか、自宅は本当に避難しなければならない地域なのかを確認してみてください。

――避難情報が出たら誰でも避難所へ行くべきなのではないでしょうか?

 避難情報は地域全体に出ます。でも、その地域の全員に避難所へ来いといっているわけではないのです。どう考えても、ここは土砂災害や水の被害も及ばないよ、という地域だったら、「在宅避難」という選択もある。しっかりとハザードマップなどで事前に検討した結果として、家に留まるほうが安全だという判断をするということも、コロナ禍では重要となります。

 それが叶わない人は、躊躇なく家を離れ、「在宅外避難」をしてください。ただし、これは直ちに避難所に行くことではありません。親戚や友人、知人などを頼って避難する、いわゆる「縁故避難」です。場合によっては、ホテル、宿泊所、といったところを活用することも手でしょう。感染リスクのある状況では、ホテル、親戚や知人宅への避難は、避難所での3密を避けるためにも有効です。

――避難=避難所に行くことではない、ということでしょうか?

 そうです。状況によっては車の利用もありですね。いわゆるエコノミークラス症候群の心配もありますので、それにしっかりと対処し、かつ安全が確保できるのであれば、「車での避難」も選択肢の一つです。

 そういったことがすべて叶わない人は、どうか躊躇することなく、命を守る手段として避難所への避難を。もちろん、避難所では3密を避け、自分でできる感染予防を忘れずに。

 このように、避難所以外の選択肢も含め、個別に避難先を決めるのが「分散避難」です。

――避難というと、行政が避難情報を出して、行政が指定した避難所に行くというイメージでした。

 その意識を変える必要があるんですよ。避難所にはどうしても人が多く集まる。そういう感染リスクの高い場所で、高齢者の方が、体育館の硬い床に毛布を敷いて寝ているという状況は本当に適切でしょうか? そんなはず、ありませんよね。

 特に3密を避けるとなると、今まで以上にゆとりを持った空間を確保しなければならないという配慮が必要になってくる。しかし、そこまでの対応を行政がすべて行うのは難しい。だから、行政も努力するけれど、私たち避難する側も、より良き避難の環境を求めて一人ひとりが努力しておくことが不可欠なんです。

――我が家はどうするのか、事前に検討しておく必要があるということですね。

 たとえば、おじいちゃんやおばあちゃんがいる家庭であれば、誰がどうアテンドして、どこにどうやって避難するのか、荷物は最低限何が必要か、家族で考えてみる。そして、このような判断をするときに参考になるのが、先ほども言ったハザードマップなんです。

2021.09.30(木)
文=大嶋律子(Giraffe)