主体的な動きが大切、まずはハザードマップを確認しよう

――ハザードマップとは、具体的にどう使えばいいのでしょうか?

 避難時に最も大事なのは、自分で自分自身の命を守る行動をとるということ。そのためには、あらかじめハザードマップや防災マップなどを利用して危険の有無を確認しておくと、被災時、速やかに行動できるようになると思います。

 ハザードマップに示される情報は、それぞれの地域の浸水被害や土砂災害に対する安全性の目安を示しています。それを確認すれば、自宅がある地域の安全性は概ね把握することができますので、さらに自宅の構造や高さなどを合わせて検討し、我が家の危険度をシミュレーションしてみましょう。そうすれば、自宅に留まることが可能かどうか、自分で判断できます。また、家族全員が自宅にいる場合、仕事などでバラバラにいる場合など、状況に応じた避難計画を話し合っておくとよいですね。

 ハザードマップはほとんどの自治体で公表されていますので、ぜひ事前にチェックしておいてください。

ハザードマップポータルサイト

国土交通省のハザードマップポータルサイトにある「重ねるハザードマップ」は、自宅住所を入力すれば「洪水」「土砂災害」「高潮」「津波」の4種類のハザードマップを地図上に重ね合わせて表示できる。
https://disaportal.gsi.go.jp/

――そう考えると、避難計画にしても実際の避難にしても、主体的に動くことが大切になってきますね。

 そのとおりです。甚大な自然災害が多発するいま、残念ながら行政にできることには限界があります。一人ひとりが避難に対し、平時から備え、主体的に動くことが大切になってきます。特に高齢者と一緒に避難する必要がある場合は、事前に避難計画を共有し、被災時にはゆとりを持って安全なうちに行動することを忘れないでくださいね。

――一方で、高齢の家族と離れて暮らしている読者も少なくありません。お年寄りだけで暮らしている家庭は、どうしても避難が遅れることになってしまうのではないでしょうか。

 行政もその対応に乗り出しています。高齢者など要配慮者一人ひとりの状況に応じた「個別避難計画」の作成が自治体の努力義務となったのです。自治体が作成する「避難行動要支援者名簿」に掲載されている住民が対象で、体の不自由な高齢者や障害者の方々の逃げ遅れを防ぐ狙いがあります。

――「避難行動要支援者名簿」というものがあるのですね。

 平成25年に名簿化されました。その運用に力を入れることになったきっかけが、平成30年の西日本豪雨です。倉敷市の真備町全域が水没し、51人の命が奪われたのですが、その大半が高齢者だったのです。しかも、2階がある住居であるにもかかわらず、1階で亡くなられた方が多かった。ある家庭では、1階で寝たきりになっているおばあちゃんを、おじいちゃんが2階に上げられず……。本当に堪えられない状況としか言いようがありません。

 このときは、事前にかなりの情報が出ていて、夜間にもかかわらず、近隣の小学校や中学校の避難所が1,000人、2,000人と溢れるくらい、皆さん避難されていた。それくらい住民の危機意識はあったのに、逃げられない人がいた。

 そうしたことから、あらゆる避難行動要配慮者の方々の状況を行政が把握し、個別の避難計画を作るという方針が定まり、現在内閣府の指導により、全国34のモデル市町村で進んでいます。また、それにともなって「福祉避難所」も充実させることになりました。

――「福祉避難所」とは?

 福祉避難所とは、寝たきり、知的障害者、生命維持装置をつけているような方たちも含め、とても避難所に行くことが無理な方々のために、介護を含めてケアがちゃんとできる避難所です。要配慮者の方々にとって、通常の避難所の環境は良いとはいえない。これまでにも福祉避難所はあるにはあったのですが、健常な高齢者も入れる状況だったため、すぐにいっぱいになってしまっていたのです。

 そこで、これからは福祉避難所の定義を明確にし、一般の避難所で過ごすことが難しく、本当に支援が必要な高齢者や障害者の方たちを対象に、利用者を事前に登録しておくことになりました。こうした行政の動きは、日本の防災対策にとって、非常に大きな改革だと思います。

2021.09.30(木)
文=大嶋律子(Giraffe)