大きな災害があった時、自分は大切な愛犬や愛猫を守れるのか、避難所で受け入れてもらえるだろうか……。CREA WEBで実施した防災に関するアンケートでは、そんな風に不安を感じているという声が多くありました。

 そこで今回は、ペットの防災に力を入れている熊本市の竜之介動物病院院長・德田竜之介先生にお話を伺いました。

ペットがいるから、人は災害を乗り越えられる

――読者アンケートでは、ペットと一緒に避難することに不安がある、という声が非常に多く聞かれました。德田先生は、これまでたくさんの被災した飼い主とペットの救援にあたられていますが、どのようなことをお感じですか?

 私が強く思うのは、災害時に人とペットは離れ離れになってはいけない、ということです。2011年の東日本大震災の際に被災地を視察したのですが、現地の状況は凄まじいものでした。飼い主と一緒に避難できず取り残されてしまった動物たちや、一瞬にしてペットを亡くされた方もいて。

 もともと、環境省や各自治体では災害時にペットと一緒に逃げる「同行避難」を原則としています。しかし、東日本大震災では、ペットは避難所の中に入ることを許されず、飼い主と隔離されて別の建物でお互いに不安そうにしていたり、ペットと離れてしまったことで体調を崩された方もいた、と聞きました。

 被災地の動物のことは、なかなかニュースにならず伝わってこないのですが、実際に現地の様子を見て、獣医師としてこの現状をなんとかしなくては、と思うようになりました。

 世の中には、動物が苦手だったりアレルギーを持つ方もいて、さまざまな人が集まる避難所にペット同伴のスペースを作ることは難しいのが現状です。これまでは、別の場所に動物だけのシェルターを作るというのが一般的でした。しかし、冷暖房完備の立派なシェルターを作るよりも、10のうち1つでもいいからペット同伴避難所を作ることが必要なのではないか、と私は考えます。

 それは動物のためでもありますが、何より家族の一員であるペットの存在に支えられている「人」を助けたい、という思いがあるからです。

 そこで、ペットと「同伴避難」ができる場所にするため、13年に竜之介動物病院をマグニチュード9の地震にも耐えられるように建て替えました。そして16年の熊本地震。震災の少ない熊本で、まさかと思っていたのですが、2度にわたる震度7の大地震に見舞われたのです。SNSや口コミで情報を広げ、1カ月の間にのべ1,500人の飼い主さんとペットを受け入れました。

ペットのいる避難所には笑顔がありました

 災害時に人は、「守る人」と「守られる人」の2種類に分かれると感じます。往診に出かけることもあったのですが、通常の避難所はやはり雰囲気が暗かった。しゃべってはいけないし、笑い声も不謹慎なように感じられるのでしょうか。避難している方も、食事や日用品が届けられるのを静かにじっと待っている、という印象でした。

 一方で、私の病院もそうでしたが、動物と一緒に避難されている方のほうが圧倒的に明るく、強かった。自分のペットを守らなくてはいけないから、やることがたくさんあるし、周囲の方と共通の話題もある。自分がしっかりしなくちゃと思うと気丈でいられるし、笑顔も出てくる。動物は繊細なので、飼い主さんが不安そうにしていると伝わってしまいますからね。守るべきものがある人は、強いですよ。

 防災がなかなか自分ごとにならないという人や、大切と分かっていても考えること自体が辛いという人も多いと思います。でも、ペットがいると、この子のために何ができるだろう、という考え方になる。何が必要なのか、避難所はどこか。動物を介して防災を見つめなおす機会をくれるんです。

 「災害に備えて何か準備するものはありますか?」と聞かれた時、私は「ペットを飼ったほうがいい」とお答えしています。そのくらい、はっきりとした違いがあるんですよ。

2021.09.11(土)
文=CREA編集部