いずれは私たちも要配慮者、防災でコミュニティを強くする
――逆に考えると、「個別避難計画」に記載されない、ある程度は動けるという高齢者の避難は、行政には頼れないということですね。
はい、それは行政ではなく、地域の問題になってきます。
ここでいちど意識してほしいのが、私たちはいまの段階では要配慮者ではなく、助ける側として、要配慮者の避難について考えているけれど、いつまでも助ける側ではいられない、ということ。
誰もが歳をとります。私も20年もすれば80歳になります。それは誰もが行く末の問題です。当然足腰も弱ってきて、いざというときには手助けをお願いしたいけれど、すべて行政にお願いして避難させてもらう、というほどではないかもしれない。
となると、それはやはり地域の問題なんですよ。高齢者になったとき、この地域に住んでいれば大丈夫、と思えるかどうか。みんなが声をかけあって、みんなで避難できるような、そんな地域であるかどうか。
要配慮者の問題は、健常者が高齢者を助けるという一方的な捉え方をしがちなんですけど、違うんですよね。助ける側の自分もいずれ助けられる側になる。そのとき、その地域に住んでいて誰かの助けを得られるかという、コミュニティのありようの問題なんです。
――いずれは我が身も要配慮者、ということですね。
「仮想次世代問題」というのですが、地域も含めた自分の将来を考えることが大切です。この地域に住んでいればご近所みんなで助けてくれる、それが難しいときは行政が責任を持って避難方法から避難の場所まで計画を立てて実施してくれる。ここに住んでいれば安心して暮らせるんだ、というコミュニティづくりが大きな課題です。
「要配慮者の姿は、将来の自分」という認識が生まれると、当事者意識が生まれてきます。そして私たちが要配慮者を気づかう姿は、その背中を見て育つ子どもたちに直接的な影響を与えます。10年後、20年後、その子どもたちは地域の中心となる大人たちに育っている。つまり、いまの地域社会を構成する大人たちの防災の姿勢そのものが、子どもたちの育みの環境を介して、将来、高齢化した自分が属する地域社会の防災に直結するのです。
そのためにも、被災時にはまず自分の命を守る行動をとれるよう、平時からしっかり備えてほしい。自分が避難することは大切な人の命も守ることにつながる、そう考えたときに初めて、犠牲者がゼロになる防災ができます。
人に寄り添う防災
集英社新書 片田敏孝 858円
豪雨災害が頻発し、台風が巨大化する。大地震はいつ来るかわからない。私たちは、荒ぶる自然と、どのような心構えで共存していけばいいのか。被災地でのフィールドワークや、内閣府中央防災会議での議論などを紹介しながら、高齢者・要支援者の避難誘導、行政に頼らない防災コミュニティの構築、非常時において情報提供者が実践すべきコミュニケーションの要諦など、具体例に基づいた「命を守るための指針」を提言する一冊。
大切な家族を守りたい!
乳幼児・高齢者・ペットのための防災
2021.09.30(木)
文=大嶋律子(Giraffe)
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