「日本代表のユニフォームを着ることはないと思っていましたけど、八王子実践高校のチームメイトたちがジュニアの大会などに出場するのを見て、私も着たいなって。それで高校の先生などに相談し日本国籍を取ることを決断しました」
日本生まれ日本育ちだが、国籍を取得するまでに3年かかったという。
「ほとんどの親戚がペルーにいるので、手続きがとても大変だった。でも、協力してくれた人たちのためにも、日本代表のユニフォームで活躍する姿を見せたい」
JTマーヴェラスに所属すると、いきなり正セッターとして活躍し、2年連続でJTをリーグ優勝に導いた。中田は、19年末に日本国籍を取得した籾井に目をつけ、今年から日本代表入りさせた。そしていきなり潜在能力の高さに気づかされた。中田が嬉しそうに語る。
ベテランセッターが若いアタッカーを育てるような口ぶりで
「練習ゲームをしていた時、ある選手に同じトスを3本上げ続けた。注意しようと籾井を呼ぶと、『○○さんに挙げたトスのことですよね』と話の先手を打たれ、『真ん中が空いていたので、ワンレグ(片足で踏み切る移動攻撃)がベストと○○さんに気づいて欲しくて同じトスを挙げた』と言うんです。ベテランセッターが若いアタッカーを育てるような口ぶりでした」
中田も現役時代、トスをコントロールすることでアタッカーに気づかれないようにジャンプ力を高めさせ、アタックに入る助走のスピードを養うなど、攻撃陣の能力を引き出してきた。だが、そんな芸当ができたのは20代後半のベテランの域に達してから。
代表入りしたばかりで、しかもチームでも最年少の籾井が、先輩アタッカーたちの欠点を補おうとする姿勢に中田はにんまりした。
コロナ禍で、国際大会ができなかった代表の久々の試合は5月に行われた東京チャレンジ。対戦相手はランキング1位の中国。
中田はこの大会に籾井を起用。この采配には誰もが驚いた。新人セッターは、正セッターの控えとして国際大会の経験を何年か積み、その後、満を持してデビューさせるというのがバレー界の定石だからだ。当然、懸念の声も上がった。だが、中田の決断は揺るがなかった。
2021.08.04(水)
文=吉井妙子