●コツ4 見た目よりも手に馴染むものを
――他にどんなものを愛用していますか?
塩谷:ご飯のときに愛用してるのが、Sゝゝ(エス)という緒方慎一郎さんのブランドの、竹のお箸です。パッと見、細くて長すぎて繊細すぎるんですけど、すごく使いやすくて、手に馴染むんです。それに慣れていると、外食で割り箸を使ったときに、「あれ? 私、手が不自由になったのかな」と感じるほど。
日本には食器に唇をつける独特の文化があると思うんです。西洋は器を持ち上げることはマナー違反ですし、フォークやスプーンもあくまで、食べ物を運ぶものといった印象があります。でもお箸やお茶碗って、舌触りが気になっちゃう。それが漆塗りだったりすると、味覚の解像度がより上がるというか……。
――ご飯の美味しさもアップしそうですね。
塩谷:はい。あと大好きなのが、三谷龍二さんの豆皿。はじめて手に持ったとき、肌にふっと馴染んでいく感じがしたんです。手に持ったときに心地いいか、肌の色に馴染むか、という点を器選びの基準にしています。
でも実際のところは、この豆皿に対して、私はまだまだ青いというか……。おそらく自分が40代、50代になり、皺が増えていった頃に、もっと使いこなせてるんだろうなぁという予感がするので楽しみです。
昔はトレンドや、デザインの斬新さで器を選んでいることが多かったのですが、そうすると一つひとつは魅力的でも、食卓の上で調和してくれない。今は、年を重ねていくにつれて魅力が増すものを選ぶようにしています。器にせよ、生活の道具にせよ、そうした基準を持つようになってから、家の中がどんどん居心地よくなっていきました。
――生活の品々でも、長い時間軸を大切にしてるんですね。
塩谷:幼少のときに見た近代的な建築って、大人になって見るとやっぱり前時代的になってしまう。もちろん文化としては面白いのですが、自分の身の回りに置くものであれば、長く使っても飽きない、より慈しみが増していくものが好きです。
●コツ5 蛍光灯の光をやめてみる
――部屋の灯りは、なにか工夫されていますか?
塩谷:やっぱり蛍光灯って人間の生産性を上げるためというか、働かせるための光という側面があるので、暮らす空間では不自然に感じてしまう。蛍光灯がピカピカと輝く部屋で照らされていると、自分は実験室のカエルのような気分になってしまうので、極力、自然光か自然に近い色のLEDで過ごしています。
あと、和蝋燭の光も好きですね。パチパチ音がなったり、火のゆらぐ加減にとても癒やされて。
照明の色を替えただけで、チープに見えていた壁紙や、ダサいと思っていた家具までも、「あれ? 悪くないな?」と見違えることもありますよね。
――マンションの和室が蛍光灯だと、えらくダサいですよね。
塩谷:せっかくの障子から入る繊細な光が負けてしまって、もったいないですよね。でもそうなってしまうのは、やっぱりクレームがあるからなんですよね、暗いとよくものが見えないとか、しっかりコーティングしてないと傷がついてしまうとか……。日本の住空間が明るく、ツルツルピカピカになってしまった。
もちろん家には、様々な機能が必要です。仕事や子育て、介護など、それぞれの家族や、それぞれのタイミングに応じた最適解があると思うので、趣深さだけが正しい訳ではありませんし。
けれどもやっぱり私は、『陰翳礼讃』で尊ばれているような、暗がりのある居住空間に憧れがあります。将来の夢は、「新築の古民家」を建てたいんですよ。
古民家のリノベーションも素敵だけれど、せっかくなら、現代のテクノロジーとUXと表現力を駆使して、新築の古民家を作ってみたい。そうすれば、100年、200年後も住み継がれるような家になるんじゃないか、なんて夢見ています。
2021.03.08(月)
文=ライフスタイル出版部
写真=塩谷舞、杉山拓也(ポートレート撮影)