日本を離れ、ニューヨークで暮らす文筆家の塩谷舞さん。憧れやトレンドではなく、自分の祖先が培ってきたものの中に宿る美しさに、あるとき気づいたそうです。
自分の中の民族性を大切に完璧じゃない美しさを探して
心がつく頃から、強い西洋コンプレックスに悩まされてきたという塩谷舞さん。
「シンプルな顔に、重い色の髪と瞳。なんて日本的なルックスなんだろう……と(笑)。劣等感を補うためにアイプチ、ヘアカラー、ファッションと、欧米人のようなわかりやすい美に近づきたくて、どんどん武装化していきました」
だがあるとき、旅先での出来事をきっかけに、意識の変化が生まれる。
「北欧で見かけた女の子たちは皆モデル体型で、肌や瞳や髪が透き通るほどきれい! どんなに私が頑張ったところで敵わない(笑)。そんなことを考えながら、ホテルに戻り、鏡に映る自分を眺めてみると、久々に和食にありついたような『薄味が懐かしい!』という感覚に。日本人的な地味なルックスも案外悪くない。さんざんマイナスだと思っていた自分のルーツが急に愛おしくなりました。それ以来、どこか借りもののようだったファッションやメイクを剝がし、本来の顔や肌の色になじむ洋服や家具を選ぶことで、初めて自分らしい美学を身にまとうことができた気がします」
選ぶのは、画一的でも完璧でもない、日本の美意識として培われてきた“侘び寂び”を感じるもの。
「生花もよく生けますが、枯れかけの儚げな姿が一番好き。だから、自分が年を取るのも悪くないなと。なるべくケアはするけど、避けられないシワやシミさえもチャーミングと感じてもらえるようなおばあちゃんになるのが理想。ニューヨークは、日本ほど若さに固執していないので、その影響も受けているのかもしれません」
2020.11.18(水)
Text=Mayumi Amano
Photographs=Mai Shiotani