北国（特に東北地方）で生まれ育った人に東京で会ったとき、その人が故郷を手放しで褒めるのを私はまず聞いたことがありません。もちろん他の地方の人でも田舎ぶりを自虐気味に語る人はいるけれど、北国は段違いです。関西や九州育ちの人に比べて北国の人はかなり方言を隠したがるし、「なんもないし寒いし雪はひどいし」と、謙虚を通り越して悪口のオンパレードとなるパターンが非常に多いように思います。かといって、心底から憎んでいるわけではなく、不器用な父を思う子のように、その物言いには故郷に対してうっすらとにじみでる情のようなものを感じます。
私はこんな、自分ではどうしようもない帰属意識から来る愛情がうらやましいのです。北に行って北の人に会うにつけ、自分の本来の姿はこれだという勝手な思いを感じ、落ちついているのかもしれません。
これは、そんな北への思慕、あるいは北を思うときのやるせなさを抱えながら北ばかりを旅した、個人的偏愛旅行記です。新潟から青森、北海道、遠くグリーンランドまで、北には北に共通する独特の良さがある。もっとみんな北を愛してほしい。
余談ですが、たぶんグリーンランド旅行記（探検記は除く、現地の街の旅行記）を載せた本は、本邦初なのではないかと思います。現地で外食をほぼしていない、ガイドらしき記事がほとんどないこの本を「旅行記」とジャンル分けしていいのかどうかは自分でもよく分かりませんが……。
