ロマンス声の極み、ジュリーの新春コンサートで……

 もうすぐホワイトデーである。が、私はバレンタインに義理チョコすらあげていない。ということは、私にとって3月14日はカップルを横目で見て無駄に腹を立てる一日でしかない。チックショー(コウメ太夫……)!

 いや、そんな浮かれたイベントにイライラするなど、どれだけ器が小さいのだ、私。そんなものに参加せずとも、手っ取り早く恋愛気分になれる方法があるではないか。そう、音楽だ!

 みなさん、世の中には「ロマンス声」なるものがあると思うのだが、いかがだろう。単に色っぽいだけではなく、恋の駆け引きやエロティックな関係を想像させてくれる声。

 告白から両思いの瞬間→デートのウキウキ→濃厚な夜→別れの言葉もないままどっかに姿を消すというドラマをその声ひとつで妄想させるロマンス声の極みといえばこの人。ジュリー、沢田研二さんである!

 彼の声にキャッチコピーをつけるなら、私は迷いなくこの言葉を選ぶ。「甘い罪」と!

 申し訳ない、テンションが暴走してしまった。実は1月に沢田研二の新春コンサートに行き「サムライ」を聞いてしまった余韻がいまだ抜けきらないのである。ジュリーのコンサートは今回で二度めの参戦だったが、確信したことがあった。

 昨今のジュリーのコンサートは社会的に訴える歌が多く、こちらも素敵なのだが、やはりこの人のラブソングは格が違う。尋常ではない破壊力なのだ。動悸息切れが激しくなるので、次回は救心を携帯していかねばと思っている。

 特に今回の新春コンサートでは、お着物を着て「サムライ」を歌うという反則技に出られた。少々声がカスレていたが、これがまた! これがまた!(←悶える)。けけけ警察、フェスティバルホールににハート泥棒がいますッ。

 ああ、なんとステキな歌詞、甘い声。切ないメロディー。私も言われたい。「寝顔にキスでもしてあげたい」ッてー! なんなら今日だけ名前を「ジェニー」に変えてもいいですか。家族も反対しないと思うし(呆れて)!

 ジュリーの声がデンジャラスなのは「聞いているこっちまでイイ女」だと錯覚を起こしてしまうところである。

 「宮崎駿作品に出てくる巨神兵に似ている」と指摘されたことがあるほどエッチラオッチラ歩行の私ですら、フェスティバルホールから出たとき、モンローウォークになっていた。ああ、やっぱり魔法使い。

2020.03.14(土)
文=田中 稲