なかなか見つからない
観光地Tシャツ
ところが――。意外とないんですよ、ピンとくるヤツが。河原町や三年坂といった外国人がよく来る目ぼしい観光地を回ったのに、「これだ!」というようなのが見当たらない。
こちらが想定していたのは、清水寺や金閣寺がプリントされているところに舞妓さんがいて、そこに「京都」と入ってるようなの。でも、そこまで冴えているのがなかなかない。みんな時代に迎合しているのか、中途半端にオシャレなんです。これでは嫌がらせにならない。
で、諦めて京都駅に向かいました。でも、最後の望みはありまして。それが近鉄の名店街。八条にある新幹線の改札口の近くにある、お土産エリアです。当時、ここは時代に取り残された感があり、売られているTシャツのセンスも古い気がしたんです。
で、探し探し求めて。でも、なかなか見つからない。最後に、いちばん奥にある薄暗い土産屋にたどりつきました。やる気のなさそうなオバチャンが一人でヒマそうにしている店でした。
今でも覚えています。入口に、虎が大きくプリントされているTシャツと並んで、アレがあったんです。金閣寺に舞妓さん、そして「京都」のプリント。完璧でした。
「あった!」
思わず叫んでいました。心の中でかなり巨大なガッツポーズをしていました。
そして気づけば、三着、買っていました。二着は新婚夫婦に、もう一着は自分に――。
京都中を探し歩いているうちに、知らぬ間に「自分の思い描く、あの観光地Tシャツ」が愛しくてたまらなくなっていたのです。
そのクセが抜けなくなり、観光地に行くと風光明媚よりも土産屋のTシャツに自然と目がいくようになってしまいました。
春日太一
1977年東京生まれ。時代劇・映画史研究家。日本大学大学院博士後期課程修了。著書に『時代劇は死なず! 完全版』(河出文庫)『仁義なき日本沈没』『市川崑と「犬神家の一族」』(以上、新潮新書)『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』『仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版』『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(以上、文藝春秋)など多数。
春日太一
観光地Tシャツのすすめ
2019.09.27(金)
文・モデル=春日太一
撮影=佐藤 亘
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