2019年2月、近田春夫の綴る週刊文春の長寿連載「考えるヒット」から興味深い書籍が誕生した。

 『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。タイトル通り、ジャニーズ事務所に所属するアイドルたちの曲を扱った、神回ならぬ「ジャニ回」を抽出してまとめたスピンオフ的な一冊である。

 その出版を記念し、ジャニーズ事務所が60年近くにわたって生み出してきた音楽をめぐって1951年生まれの近田氏と語り合うのは、2016年に『ジャニーズと日本』(講談社現代新書)を上梓した1983年生まれの矢野利裕氏。

 32歳違いのトークをお楽しみあれ!

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SMAPという大きすぎる転換点

左から:矢野利裕氏、近田春夫氏。戦後史の一ジャンルと呼ぶべきジャニーズへの興味が、親子ほど年の離れた2人をつなぐ。
左から:矢野利裕氏、近田春夫氏。戦後史の一ジャンルと呼ぶべきジャニーズへの興味が、親子ほど年の離れた2人をつなぐ。

矢野 近田さんは、『考えるヒット テーマはジャニーズ』の舞祭組(ブサイク)の項で、中居(正広)くんと話したことを書いていらっしゃいますよね。そのことも詳しくお聞きしたくて。

近田 フジテレビの「TK MUSIC CLAMP」(中居MCは1996年5月~1997年6月)っていう番組に、中居くんと僕がしゃべるコーナーがあったんだよ。そこでレコーディングかなんかの話をしたときに、「次の作品はどんな曲になるの?」みたいなことを聞いたのかな。

 そうしたら「えーっ、そんなこと知るわけないじゃないですか!」って、ものすごくショックを受けたような表情でね。

矢野 彼は歌い手が制作に関わることを新鮮に感じたんですかね?

近田 わかんないけど、自分は与えられたものをやるということ以外は想像をしたこともないって感じだったね。俺なんかはさ、ずっと自分ひとりでやっていたじゃないさ。「そういう人がいるんだ!」みたいな。

矢野 与えられた曲を歌うだけ、という発想だから。

近田 うん。のちには彼も自分でプロデュースをしたりするようになるけど、90年代のジャニーズはそんなものだったのかもしれないね。

矢野 自作自演じゃないのがジャニーズの基本線ですもんね。

近田 時代の流れで、だんだん自意識に目覚めてきてさ、自分で作る人も出てきたりするから、俺が好んでいるジャニーズ的なものではなくなってきているのかもしれないね。

矢野 自分の本ではその最初がSMAPだという話をしているんです。

 ジャニーズという世界観がまずかっちりあって、そこでは与えられたものをきちんとこなすプロフェッショナルというあり方が基本で、歌い手の自意識とか自我はあまり入ってこない。

 SMAPはその中ではなかなかブレイクできなくて見放されかけていたんですが、飯島三智さんがプロデューサーになって従来のジャニーズの華やかさを捨てさせたら、むしろ人間的な魅力を発揮するようになっていった。

 視聴者からしたら、仰々しい華やかさじゃなくて等身大な感じがいい、みたいな。僕自身もそう思った記憶があります。

 関ジャニ∞やKAT-TUNのメンバーが自分の音楽性を追求したくて辞めるみたいなことは、そのずっと先に起きたことなのかなと思います。そういう意味でSMAPは大きな転換点かもしれないですね。

近田 僕もそう思う。最初は鳴かず飛ばずだったから、やけっぱちだったのかもしれないけど、SMAPにはそれまでのジャニーズにないものがあったんだよ。素人っぽさというか、あるいはストリート感みたいなことかもしれない。

2019.07.20(土)
構成=高岡洋詞
撮影=山元茂樹