食べ過ぎちゃって
しゃべれなくった本番

 板前である父親が、サトシのためにおにぎりを握って食べさせるシーンは、草彅、山﨑にとって印象深いシーンだったという。

草彅 僕はほとんど山﨑君とのシーンだったからね。おにぎり食べるシーンは、本当に沢山食べてたもんね。

鶴岡 8個くらいですね。

山﨑 本番のときに、食べ過ぎちゃって、しゃべれなくって。

草彅 難しいよね。しゃべりながら食べるの、大変だったろう? あれどうやってやるの?

山﨑 結構早く飲み込みました。

草彅 できないよ、それ。僕は食べているふりするよ。監督もそこを見逃さないで、丁寧に撮ってましたよね?

鶴岡 全部撮りました。カットせずに。

草彅 あそこは結構見どころかも。あと、サトシとコズエの崖のシーンも好きなんだよ。

鶴岡 大人になりたくない、という気持ちを言うところですね。

草彅 映画のメッセージが詰まっている気がして、あそこが一番好き。僕のシーンも好きですよ(笑)。須藤さんも素敵なお母さんで。僕がダメなオヤジなので、心の中では耐えているけど、それは子供の前では見せられないという。あれ、どうやってるの?

須藤 草彅さんと私、舞台で6年前に共演させていただいて。

草彅 「二都物語」という舞台ですね。

須藤 そのときも敵対する役で、最後は刺されて死ぬという。今回も、ほとんど目を合わせないで、心を通わせない。でも最後の最後に、家族が笑顔になる。なんか、家族っていいな、って思いました。

草彅 僕も本当に思いました。

  役柄と同様に、終始、子供たちを温かく見守る両親といった表情の草彅と須藤

 草彅が「本にもありましたけど、人間というのはその瞬間、瞬間に新しい粒に入れ替わって。細胞というのかな、簡単に言うと。そのときの自分は今しかいない。そういう当たり前のことを考えさせてくれる。この作品がすごく好きなんですよ。小学5年生の自分とは僕も全然違うわけで、でも、再生していきたいですよね。ただ朽ち果てていくだけじゃなくて」とテーマを見事にまとめると、須藤が「本当に今日は良かったですね、(読むのが)間に合って」と突っ込むなど、まるで夫婦漫才のように見事な掛け合いを見せてくれた。

 最後に子役の二人は未来予想図として、山﨑はアカデミー賞のレッドカーペットでサインを求められる自分を、新音はいくつもの顔を演じられる女優という自画像を披露。

 大人たちは二人のしっかりした夢に、感嘆することしきりだった。

 草彅は最後に、15歳になった山﨑へ「山崎くんのままで進んで行ってよいと思います! 凄い才能を持っている。撮影の時は山崎くんとのシーンで僕も緊張するくらいでした。このまま頑張ってください」とエールを送った。

 子供たちは成長し、大人たちは再生していく。そんな映画の魅力を感じさせる、舞台挨拶だった

『まく子』

ひなびた温泉街にある旅館の息子サトシは小学5年生。思春期の入り口で、体の変化に悩み、浮気性の父親に反感を抱いていた。ある日、美しいコズエが転校してきた。コズエはとても変で、とてもキレイで、なんでも「まく」ことが大好きで、秘密を持つ少女だった。

2019年3月15日(金) テアトル新宿ほか全国ロードショー
出演:山﨑 光、新音、須藤理彩/草彅 剛
原作:「まく子」西加奈子(福音館書店 刊)
監督・脚本:鶴岡慧子
http://makuko-movie.jp/
(C)2019「まく子」製作委員会/西加奈子(福音館書店)

映画『まく子』の魅力を
原作者と出演者が語る

2019.03.15(金)
文・撮影=石津文子