自分のギャグに「ブランド感」と「レア感」をまとわせる

 ヒントになるのは、学生時代の友人である。彼女は「時計なんか、ほっとけい!」のようなベタなギャグを頻繁に口にしていたが、周囲を戸惑わせることはなく、むしろ喜ばれていた。

 今考えると、彼女はギャグを口にする場を巧みに選んでいたと思う。「ちゃんとツッコんでくれる人がいる場所」でしか言わなかったからだ。私見では、おやじギャグの破壊力はプロレス技に相当する。きちんと受けてくれる人がいないと魅力が伝わらず、受け身の取れない相手に出すと危険だという点でも、おやじギャグはプロレス技と似ている。

 また、彼女のキャラクターが「ノリの良い愛されキャラ」であり、周囲がツッコみやすかったという点も無視できない。それを考慮すると、初対面の人とか上司とか先生とか偉い人とか、ツッコみづらい人のギャグが扱いづらいというのも頷ける。

 つまり、どうしてもおやじギャグを言いたい場合は、ツッコみやすい雰囲気を醸しつつ、きちんとツッコんでくれる人がいるところで言う、というのが最大公約数的な答えになりそうだ。だが、それだと相談にあったような「つい口に出してしまう」状況には対応できないかもしれない。そういう場合でも周囲を凍りつかせず、逆に価値を感じさせる方法はないか。そこで提案したいのが、自分のギャグに「ブランド感」と「レア感」をまとわせる方法である。

 そのためには事前の準備が必要だ。自己紹介の機会なんかを利用して、周囲の人々に「実は私、おやじギャグを言う癖があるんです」と宣言するのだ。つまり、自分自身を「ギャグの名産地」としてブランド化するわけだ。と同時に、「でも、人前では言わないようにしている」とか「その癖を直したいと思っている」と言って、自身のギャグが「なかなか聞けないレアもの」であることを印象づけておく。

 そうすれば、「どんなギャグを言うんですか?」と興味を持ってもらえるかもしれないし、「聞きたいから言ってみてください!」と頼まれるかもしれない。中には「もし言ってるところに出くわしたらツッコんでやろう」と、機会を虎視眈々と狙う人も出てくるかもしれない。そういう土壌が作れれば、不意にギャグが出てしまったときに「○○さんのギャグを聞いた!」「ツッコミを入れてやった!」と喜ばれる可能性が出てくる。

 なぜこんな提案をするかというと、私自身がこの方法で成功したからだ。さっきも言ったように、私にはモノマネをする癖がある。ろくに知らない人の前でそれをいきなりやっても、スルーされるかドン引きされるかのどちらかだったが、あるとき著書の中で「毎日家でアントニオ猪木のモノマネをしている」「でも人前ではやらない」と書いたところ、読んだ人から「見たいからやってください!」と頼まれるようになったし、ポロッとやってしまったときに「生で見た!」と有り難がられるようになったのである。

 「これのどこが、"言葉のセンス" に関係あるんだよ」と思われるかもしれない。だが、「センスを感じさせる言葉づかい」には、単に表現を工夫することだけではなく、自分の言葉の価値が高まるような「文脈づくり」も含まれるのではないか。おやじギャグを言う癖のある人は、一度お試しいただきたい。(ただし、苦情はいっさい受け付けない。)

川添愛(かわぞえ・あい)

言語学者、作家。九州大学文学部、同大学院ほかで理論言語学を専攻し博士号を取得。2008年、津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、12年から16年まで国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授。著書に、『白と黒のとびら』『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』『ふだん使いの言語学』『言語学バーリ・トゥード』『世にもあいまいなことばの秘密』『日本語界隈』(ふかわりょうとの共著)『「わかってもらう」ということ 他人と、そして自分とうまくやっていくための言葉の使い方』『パンチラインの言語学』など多数。