そこで主人が「今度の家は台所を1階と2階に2つ作る。お袋は基本は2階で生活し、朝と昼の食事は自分で作って1人で食べること。夕食のときだけ1階に降りてきて、みんなで食べることにしよう」と宣言したのです。さらにそれを紙に書いて、壁に貼りました。私は「そこまでやらんでも……」とちょっと気が引けましたが、「共同生活を円滑に営むには、きちんとしたルールがいるんだ」と主人。ちょっと男らしくて、正直、嬉しかったですね。
ですが、実際の生活というのは、そう簡単ではありません。
上沼さんと義母の「攻防」
1週間ぐらい経ったころでしょうか。お昼にうどんを作ろうと出汁をとっていると、2階からお義母さんが降りてきました。「恵美子さん、お出汁のいい匂いがするけども、ひょっとしておうどん?」「はい、うどんです」「いいわねえ、お昼はうどんが一番」……お義母さんの気持ちはわかりましたが、ここが我慢のしどころ、私は黙って手を動かします。しかしテキもさる者――。
「私、朝、食パンだったの。うどん食べたいけど、買ってなくてねえ。ああ~、いい香り」
私は無視してネギを刻みました。
「恵美子さん、私、お昼、何も材料がないから、食パンを1枚分けていただける?」
心を鬼にして、1枚、渡しました。
「あ~、朝もパンだったけどお昼もこれを焼いて食べるわ。それにしても、いい香りね~」。お義母さんは食パンをぶらぶらさせながら、階段を一段、一段、上がっていきます。
もう、我慢の限界でした。
「お義母さん! おうどん、一緒に食べましょう!」
結局、その家は1年ほど住んだだけで引っ越しました。台所を2つ作って、壁にルールを貼ってみても、中で暮らす生身の人間同士が生活を営んでいくわけです。










