当事者たちが心地よく仕事をできる環境を作るために

――『フタリノセカイ』で、トランスジェンダー男性の真也という役をシスジェンダー男性の俳優である坂東龍汰さんが演じていたことにはそうした背景があったのですね。ただ、ここで男性の俳優さんが演じたこと自体も画期的だったように思います。シスジェンダー女性の俳優さんではなく、シスジェンダー男性の俳優さんをトランスジェンダーの男性役に、というのは当初から決めていたことだったんでしょうか。

 それははっきり決めていました。真也はすでに治療をしていて肉体的にもかなり男性化が進んでいるというキャラクターだったので、それをシスジェンダー女性が演じるのは限界がある。当事者が無理なら、シスジェンダー男性が演じる方が自然に見えるであろう。そういう判断でした。

――当事者キャスティングはまだ日本では早いのでは、という懸念は、『ブルーボーイ事件』においてはどう変わってきたのでしょうか。

 コロナ禍を経て、ようやく当事者が気持ちよく働ける準備ができてきたように思えたということでしょうか。それと、実際に当時「ブルーボーイ」として働いていた方々が存在していたことを考えると、なおさら当事者の声によって届けることが重要に思えました。とはいえ本当に俳優たちを見つけられるだろうかと不安の声はスタッフ間でも上がっていましたし、本当に試行錯誤をしながら進めていきました。

――いろんな段階や試行錯誤を経て、最終的には、この方針で行こうと決められたわけですね。

 そう決定できたのは、やはり主演の中川未悠さんと出会えたことが大きかったと思います。もし見つからなければ、俳優にあわせてサチ役のキャラクターを書き直さないといけないかな、という覚悟もしていたのですが、中川さんがオーディションに来てくださって、そこにいた全員が「あ、サチは彼女だね」と確信できた。それが大きな一歩になりました。

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