エキストラの経験を通して感じたこと
――先ほど、当事者キャスティングを日本でも進めていくためには当事者たちが心地よく仕事ができる環境作りが不可欠だ、とおっしゃっていましたが、『ブルーボーイ事件』の製作現場の環境整備はどのように意識されていましたか?
これは僕の経験談になるんですが、映画の仕事を志した若い頃、まずは撮影現場を覗いてみたいと思ってエキストラに応募したんですね。ところが現場に行ってみるとエキストラの更衣室は男部屋と女部屋のふたつだけしかなく、パーテーションもないまま大勢の中で衣装に着替えないといけなかった。そのとき、ああ自分のような人間は映画の世界を諦めないといけないのかな、という気持ちになりました。
そういう経験を何度も味わっていましたから、自分が参加する現場ではそういう思いをする人がいないようにしたい、と決意していました。エキストラの更衣室を用意するときは、しっかりパーテーションで区切るよう提案したり、できうる限りの状況を考えて、スタッフとも一生懸命にコミュニケーションをとっていったつもりです。
――そういう視点を持った人がひとりでも多く現場にいれば、環境として絶対に良い方向につながりますよね。
どの作品でも現場専門の監修の方がいてもいいなと思っています。今回はトランスジェンダー支援スクールを主宰する西原さつきさんに監修として入ってもらい、現場で起こりうるいろいろな困りごとを事前にシェアしてもらいました。それから宣伝段階では監修に松岡宗嗣さんに入っていただきました。
映画を作るってやっぱりすごく怖いこと。たった一言で誰かの心を決定的に傷つけたり、人生を変えてしまったりもする。だからこそ、安心できる環境作りは絶対に必要だし、今回の試みを通して、僕自身も表現者として安心して取り組みことができたなと思います。
『ブルーボーイ事件』
監督:飯塚花笑
脚本:三浦毎生、加藤結子、飯塚花笑
キャスト:中川未悠、前原滉、錦戸亮、中村中、イズミ・セクシー
配給:日活、KDDI
©2025『ブルーボーイ事件』製作委員会
公開日:2025年11月14日(金)
https://blueboy-movie.jp/
《STORY》
1965年、街の浄化を目指す警察は、セックスワーカーを厳しく取り締まっていたが、ブルーボーイと呼ばれる性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受け、身体の特徴を女性的に変えた人々の存在が警察の頭を悩ませていた。戸籍は男性のまま、女性として売春をする彼女たちは、現行の売春防止法では摘発対象にはならない。警察は、生殖を不能にする手術は「優生保護法」(現在は母体保護法に改正)に違反するとして、ブルーボーイに手術を行っていた医師の赤城を逮捕、裁判にかける。ウェイトレスとして働くサチは、恋人の若村からプロポーズを受けた。ある日、弁護士の狩野がサチのもとを訪れる。サチは、赤城のもとで性別適合手術を行った患者のひとりで――。
