上大岡 我が家では母がお金の管理をしていました。父がパーキンソン病を発症したときに、母は「娘たちに資産状況を共有したい」と提案したそうです。ところが、父は「まだ早い」と反対して。
そこで母は、父の不在時に姉と私を実家に呼び出して、ノートの存在と実印、通帳、銀行印がある場所を教えてくれたのです。姉と私はそれぞれ京都と山口在住なのですが、そのためだけに実家がある横浜まで行き、父が戻ってくる前に何事もなかったかのように帰りました。
シミュレーションは「104歳まで長生きする想定」で
――お母さまのご判断がすばらしいです。老人ホームへの入居を先に受け入れたのもお母さまでしたよね。
上大岡 そうです。母のほうが冷静に現実を見据え、「私は安心したいから早く(老人ホームに)入居したい」と話していました。父はどちらかというと現実から逃れようとしていましたね。
いざ老人ホーム探しを始めたときは、ファイナンシャルプランナーの黒田尚子先生に施設入居にかかる費用をすべて計算してもらいました。最終的に候補を1つに絞り込んで、夫婦室にした場合と個室2つにした場合のシミュレーションまでしていただいて、両親が100歳まで生きても金銭面で問題ないことがわかってからやっと契約しました。
――人生100年時代といいますから、そこまで見通しを立てる必要があるんですね。
上大岡 元気な高齢女性の場合は、104歳まで長生きする想定でシミュレーションする必要がある、とも聞きます。結局、現実から逃げても不安しか残らないので、きちんと向き合うしかないんですよね。
――とはいえ、老いていく現実から逃げたくなる気持ちもわかります。
上大岡 そうですね。母はすごく料理上手だったのですが、だんだん料理ができなくなって、自分でもそれが寂しくて情けない、とよく愚痴をこぼしていました。社交的な人だったのに、だんだん内にこもるようになり、鬱気味になっていって……。そんな姿を見るのは、こちらもつらかったです。一方、運動神経抜群でスポーツマンだった父は、パーキンソン病と加齢で身体の自由がきかなくなり、頑固になっていきました。
