『マンガで解決 老人ホームは親不孝?』(主婦の友社)を上梓した、漫画家・イラストレーターの上大岡トメさん。89歳の父親と85歳の母親を在宅遠距離介護するのはもう限界、だけど父親は「いったん入ったが最後、刑務所といっしょだ!」と老人ホームへの入居を断固拒否――。

 上大岡さんはどんな思いでさまざまな決断をしたのでしょうか。その経緯について聞きました。(全2回の1回目続きを読む

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――タイトル(『老人ホームは親不孝?』)には「?」がついていますが、「親を老人ホームに入れるのは親不孝」という意見は、今も多いのでしょうか。

上大岡トメさん(以下、上大岡) 一般にはわかりませんが、我が家の場合は、親を老人ホームに入れたほうが親孝行だと思いました。我が家は父と母、そして3歳上の姉と私の4人家族でした。両親は横浜の実家で暮らしていて、私は山口、姉は京都で普段は別々に住んでいました。

無意識に「親フィルター」をはめていた

――老人ホームへの入居はいつ頃から検討されていたのでしょうか。

上大岡 10年くらい前ですかね。姉は「自宅で暮らせなくなったら、両親を自分のいる京都に呼んで、近くの施設に入居してもらう」と言ってくれていました。でも、両親はまだなんとかふたりで支え合って暮らしていましたし、なるべく住み慣れた自宅にいたいと希望していたので、「じゃあ、いざとなったら横浜で施設を探そう」と。

 ただ、遠距離介護なので、両親と会っているときは「老いが来ているな、どうしよう」と思うのですが、山口に帰ると自分の生活で精いっぱいで……。「今日も大丈夫だったから、明日も大丈夫」と、その危機感が薄らいでしまうんです。

 根拠なく“自分の親は大丈夫”と思ってしまう「親フィルター」を無意識のうちにはめていたんですよね。親への視点が相対的で、判断が甘くなっていたんです。今思うと完全にアウトでした。

――上大岡さんのお姉さまは地震学者で、バリバリの理系ですよね。本書を拝読して、合理的な判断をされる方なのかなとお見受けしましたが。

上大岡 それでも親のこととなるとフィルターがかかるし、感情が揺れるんですよ。

――老人ホームに入居する前、ご両親はどのような健康状態でしたか?

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