児玉さんがオバケ? に出会った話

――児玉さん自身は、霊感のようなものはあるのでしょうか。

 自分ではないと思っているのですが⋯⋯亡くなったはずの方に出会ったことはありますね。サラリーマン時代の話ですが。

――ぜひ教えてください。

 「お父さんが亡くなり、2階建ての一軒家を相続した」という男性からの依頼で、売却に携わったときのことです。その物件は男性のご実家で、お姉さんと共有名義で管理しなさいという遺言があったそうです。

 男性としては遺言通りその家を持ち続けたい意向でした。しかし立地が良く大きな物件だったため固定資産税もばかにならず、お姉さんは「誰も住まないなら売って現金化したほうが良い」という考え。そこで揉めるのも嫌なので売却へ、となったわけです。

 さっそく僕は、売却の査定をするために家を訪れました。預かった鍵で部屋に入り、室内をチェックしながら売却に必要な書類に記入していったのですが、1階の和室にさしかかったとき、「こんにちは」と声をかけられたんです。

――幽霊に……?

 見ると1人の中年女性が、和室の畳を拭き掃除していました。お父さんが亡くなってから出入りする人はいないと聞いていたのでビックリしましたが、「大変失礼しました!」と、慌てて自己紹介をしたんです。査定に来ていると話したところ、「あの子たちったら、まったく⋯⋯」と。

 その女性、「この家は主人と苦労して初めて買った不動産だから、『仲良く管理なさいね』というつもりであえて二人の共有名義にしたのに、なんでケンカするのかしら。本当にもう」とかブツブツ言い出すんです。女性は依頼者の男性のお母さんだったんですよ。家の事情もよくご存知でした。

 ただ、亡くなったお父さんは一人暮らしだったと聞いていたし、相続の話にもお母さんは出てきていない。ということは離婚されたのだろうと思いつつ、「ところで、何をしてるんですか?」と聞くと、「長年お世話になった家をねぎらうために掃除しているの」って。

――律儀な方ですね。

 その後も「あの子たちも昔は仲がよかったんですよ」「そこの柱に息子が頭をぶつけてケガをして」みたいなお母さんの昔話を片耳で聞きながら僕は査定を済ませました。帰り際に「鍵は開けておいていいですか?」と聞くと、「締めておいてください」と言われたのでそうして帰りました。

 その夜、依頼者の男性に査定の報告をして、「そう言えば、家にお母さんがいらっしゃいましたよ」と言ったんです。すると「何言ってるんですか。母は30年前に亡くなっています。空き巣か何かじゃないですか」って怒り始めちゃって。

 でも、家の事情やご家族についてよく知っていたこと、息子さんがケガをしたときの話も伝えると、やっと信じてもらえたようでした。翌日、お姉さんも一緒にその一軒家に行って、現地で改めてお母さんがどんな様子だったのかをお話したんです。お二人には羨ましがられましたよ。「私たちの前には出てきてくれないのに」って。

――児玉さん、やはり霊感があるのでは。

 どうなんでしょう。そもそも僕は、その女性を実在の人間と思って接していましたし、今もオバケとは思えないんです。でも、お二人は「児玉さんにいろんなことを言って私たちをここに導いたのは、やはり母親だろうと思う」と。その家は結局、売却されませんでした。「母がいるなら、父も戻ってくるかも知れない」ということで。

 霊らしき人物とじかに接したという経験はこのくらいなのですが……。

――十分です! 貴重なお話をありがとうございました。

児玉和俊(こだま・かずとし)

株式会社カチモード代表。2007年より賃貸不動産管理業に従事し、2022年に独立し現職。科学・非科学の垣根をまたぎ物件にまつわる不可思議な現象と向き合い、事故物件に悩む不動産オーナーをサポートしている。不動産業界向け講演会からオカルトイベント、YouTube出演等多岐にわたり活躍中。著書に『告知事項あり』(イマジカインフォス)など。https://kachimode.co.jp/

事故物件の、オバケ調査員 心理的瑕疵物件で起きた本当の話

原作:児玉和俊 マンガ:みつつぐ
定価 1,375円(税込)
Gakken
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)