体験が学びを加速させる
体験格差のポイントは、体験があることで学びが深まりやすくなるという点です。体験は学習意欲を高め、問いを生み、「知りたい」「確かめたい」という内発的動機づけを生み出します。
たとえば、歴史の勉強を考えてみましょう。「鎌倉幕府は1185年に成立した」という知識を覚えるだけなら、体験は必要ありません。
しかし、実際に鎌倉を訪れ、鶴岡八幡宮を見て、武士の時代の空気を感じると、「なぜここに幕府が置かれたのか」「どんな人々がこの街を作ったのか」という問いが生まれます。
そして、その問いを持って勉強すると、知識が「自分ごと」になります。単なる年号や用語ではなく、「あの場所で起こったこと」として理解できるようになるのです。
これは、明治維新の例と同じです。第1章で見たように、「明治維新=1868年前後に起こった政治変革」という静的知識が、「体制が変わるときの騒然とした空気」「社会変革による動乱」「時代を変えた出来事の影響」といった、さまざまな視点とつながることで、動的知識になっていきます。
そして、もし実際に田んぼを見たり、農業体験をしたりしていれば、「土地を開拓する」という行為がどれだけ大変か、実感を持って理解できます。その実感が、知識をさらに動的にするのです。
このように、その体験をしたか、していないか、そこに行ったことがあるか、ないか。こうしたことが、学習に対して影響を与えてしまっている面があるということです。
これは、残念ながら実際にあることだと僕は考えています。
経済的な理由で旅行に行けない子ども、異文化に触れる機会がない子ども、さまざまな体験をする機会が限られている子ども……。その体験の差は、学習の理解度や意欲の差につながってしまう可能性があるわけです。
これは、単に「知識の量」の差ではありません。「知識が動的になりやすいかどうか」の差なのです。
体験があると、知識が体験と結びつき、動的になりやすい。しかし、体験がないと、知識は静的なまま、暗記事項として残りやすい。これが、体験格差の本質だと言えます。
文=西岡壱誠
