「昔は人でいっぱいだったんだろうなぁ……」

 覗き込んだロビーカウンターの裏。

 扉を開けた先のスタッフルーム。

 5人全員が個別に黙ったまま進めている探索の最中、Iさんは得体の知れない好奇心に突き動かされるように大階段を登っていました。

 目の前に見えてきたのは観音開きの重そうな扉。脇には『披露宴会場 サン・ミッシェル』の文字。

 Iさんは金色の取っ手をつかむと、グッと体重をかけて大きな扉の片方を、グボッと音を鳴らして開けました。

 天窓から外の明かりがかすかに入り込んでいたその披露宴会場は、西洋風のどこか軽薄にも感じられるデザインでした。

 俯いて点在する電気の通っていないスポットライトや、テーブルクロスすら取り払われた無機質な円形のテーブル群。それらが醸し出す空虚さは、Iさんの心をじわじわと不安にさせていったそうです。

「昔は人でいっぱいだったんだろうなぁ……」

 人の気配、もっと言うと“魂”が抜けたようにも感じられるこの建物は、外から見た以上の抜け殻で、空間全体が“死んでいるような感覚”さえ覚えました。

 そんな死の空間を1人で探索している自分。

 そういえば、なんで自分たちはこんな風にバラバラと何も言わずに探索してしまっているのだろう。皆で恐怖を共有するために来たはずなのに……――そこで初めて自分たちの行動の不可解さに気がつきました。

 そして次の瞬間、遠くで誰かの声が響いたのです。

» (後篇に続く)

次の記事に続く 「写真撮ってもいいですかぁ~」廃式場に響いた“声”とシ...