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 大分県・別府温泉郷、鉄輪温泉から車で約5分。今年3月に小倉地区にオープンした湯治宿「七日一巡り(なのかひとめぐり)」に宿泊し、周辺の町歩きへ――。

 小倉地区は、別府温泉郷の8つの温泉「別府八湯」には入っていないため知名度は低いが、鉄輪温泉と堀田温泉の中間に位置し、ぶらぶら歩くのにちょうどいいコンパクトな町。さらに足をのばして、湯けむりが立ちのぼる鉄輪温泉まで出かけてみるのもおすすめだ。


江戸時代のお殿様も浸かったジモ泉

◆照湯温泉

「道が入り組んでいて、1本道を間違えば違うところに行ってしまうのが小倉の町だ」

 照湯温泉の管理者でもある地区のリーダーにそう教えてもらい、おそるおそる路地に足を踏み入れた。とはいえ、今はスマホのナビ機能もあるので道に迷うことはなく、8分ほど歩くと照湯温泉に到着。

 朝は9時からとやや遅めのオープンだが、営業開始時間になると数人の地元客が「待ってました」とばかりにやってくる地元民の温泉、いわゆるジモ泉だ。朝から夜まで客足が途切れることはない。

 照湯温泉は、かつて豊後森藩のお殿様が入ったとされる「殿様湯」。男湯の石組みの浴槽には当時の石が今も残り、湯口には温泉成分のカルシウムが付着し、歴史の重みを感じさせる。

 湯は無色透明、源泉温度約98℃の単純温泉。この日の女湯は入りやすい温度だったが、常連さんによると普段はもっと熱いそうだ。

 照湯温泉の入り口から坂道を上ってすぐの場所に、熱い蒸気が噴き出す源泉がある。受付のおばちゃんが「温泉玉子を作りに行く」と言うので、ついていった。

 「やけどをするから、今は開放していないのよ」と話すおばちゃんは、慣れた手つきで蒸気釜に卵入りのザルをセットし、蓋を閉める。温泉玉子は蒸気で20分蒸すそうで、「以前は12分だったんだけど、それだと柔らかいって言う人もいたの」と教えてくれた。

 20分後に蒸し上がった温泉玉子は、受付で販売するそうだ。「おひとつ、いかが?」とすすめられ、2つ購入。その場で1つ頬張ると、ホクホクとした味わいだ。さらに、おばちゃんが個人的に蒸していた在来種のとうもろこし「もちきび」まで土産にもらった。こうした温かいふれあいが、ジモ泉らしい。

照湯温泉

所在地 大分県別府市小倉5組-1
電話番号 0977-51-4272
営業時間 9:00〜21:00
料金 300円
https://onsendo.beppu-navi.jp/y128/

2025.10.05(日)
文・撮影=野添ちかこ