この記事の連載
あしたの少女/バカ塗りの娘
私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?/燃えあがる女性...
人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした...
香港の流れ者たち/星くずの片隅で/枯れ葉
夜明けのすべて/アダマン号に乗って/コット、はじまりの夏
落下の解剖学/ビフォア・ミッドナイト/コール・ジェーン -女...
美と殺戮のすべて/アイアンクロー
システム・クラッシャー/ありふれた教室
違国日記/20センチュリー・ウーマン/オールド・フォックス ...
メイ・ディセンバー ゆれる真実/あるスキャンダルの覚え書き/...
コンセント/同意/HOW TO HAVE SEX
ナミビアの砂漠
Cloud クラウド
ヴァラエティ
クラブゼロ
エマニュエル
ノー・アザー・ランド 故郷は他にない
ケナは韓国が嫌いで
山田くんとLv999の恋をする
来し方 行く末
ラブ・イン・ザ・ビッグシティ
カーテンコールの灯
私たちが光と想うすべて
タンゴの後で
ホーリー・カウ
大金を得るために地元のチーズコンクールへ

ただし、悪童であっても悪人ではないのがトトンヌの魅力だ。飲んだくれの父親を心配する優しさをもつ彼は、いざ父が亡くなり、妹と二人きりになれば、なんとか保護者として振る舞おうと努力する。嫌な職場にも我慢して通い、学校への送り迎えをどうにかこなそうとする。だが長くは根気が続かず、これなら手軽に大金を得られるはずと飛びついたのが、地元のチーズコンクール。
父がどんなふうにチーズを作っていたかろくに覚えていないトトンヌの計画は、最初から失敗ばかり。あまりの無計画ぶりに誰もが呆れるなか、ここで友人たちの存在が光り始める。

同じような悪童ばかりに見えた彼らだが、バカにしながらもせっせとチーズ作りを手伝い、クレールの面倒も見てくれる。相変わらず軽薄で無鉄砲な彼らだが、友達が困っていたら当然のように手助けをする。突然いい人に変化したわけではもちろんなく、元々そういう気概をもった子たちだったのだ。変わったのはむしろ、彼らを見つめるこちらの視線だ。
トトンヌという少年に向ける私たちの視線も、チーズ作りを通して徐々に変わってくる。最初は気づかなかったが、実は彼は、人から何かを教わり学ぶことを受け入れられる人なのだ。反抗的で生意気な若者に見えるが、決して他人の助言や教えを突っぱねたりはしない。昔ながらのコンテチーズをどう作るのか、美味しいチーズには何が必要なのか。面倒そうにしながらも、彼はしっかりと人の話を聞き、自分には何が足りなかったのか考える。
2025.09.30(火)
文=月永理絵