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大金を得るために地元のチーズコンクールへ

 ただし、悪童であっても悪人ではないのがトトンヌの魅力だ。飲んだくれの父親を心配する優しさをもつ彼は、いざ父が亡くなり、妹と二人きりになれば、なんとか保護者として振る舞おうと努力する。嫌な職場にも我慢して通い、学校への送り迎えをどうにかこなそうとする。だが長くは根気が続かず、これなら手軽に大金を得られるはずと飛びついたのが、地元のチーズコンクール。

 父がどんなふうにチーズを作っていたかろくに覚えていないトトンヌの計画は、最初から失敗ばかり。あまりの無計画ぶりに誰もが呆れるなか、ここで友人たちの存在が光り始める。

 同じような悪童ばかりに見えた彼らだが、バカにしながらもせっせとチーズ作りを手伝い、クレールの面倒も見てくれる。相変わらず軽薄で無鉄砲な彼らだが、友達が困っていたら当然のように手助けをする。突然いい人に変化したわけではもちろんなく、元々そういう気概をもった子たちだったのだ。変わったのはむしろ、彼らを見つめるこちらの視線だ。

 トトンヌという少年に向ける私たちの視線も、チーズ作りを通して徐々に変わってくる。最初は気づかなかったが、実は彼は、人から何かを教わり学ぶことを受け入れられる人なのだ。反抗的で生意気な若者に見えるが、決して他人の助言や教えを突っぱねたりはしない。昔ながらのコンテチーズをどう作るのか、美味しいチーズには何が必要なのか。面倒そうにしながらも、彼はしっかりと人の話を聞き、自分には何が足りなかったのか考える。

2025.09.30(火)
文=月永理絵