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 大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で長谷川平蔵役を演じ、お茶の間の人気を集めている中村隼人さん。新進気鋭の若手として、歌舞伎の世界でも、重要な大役を次々演じています。7月は大阪松竹座「七月大歌舞伎」に出演。役替りを含め三演目に出演されます。

 歌舞伎座に出演中のお忙しい中のインタビューとなりましたが、セットアップで現れた隼人さんはとっても爽やかでした。


お茶の間に“いじられる”新たな長谷川平蔵像

――『べらぼう』の反響はいかがですか?

中村隼人さん(以下、隼人):ありがたいことにすごく反響をいただきました。作品の中でも要所で出していただいて。僕が演じている長谷川平蔵は、いわゆる悪を斬っていく「鬼平」じゃないですか。

――池波正太郎原作の大ヒット作品「鬼平犯科帳」のイメージは強烈ですね。

隼人:だから、今回のべらぼうでは皆様の想像とは違う長谷川平蔵を見せたいと、監督さんやプロデューサーさんから言われていました。そこで、最初はゆるいというか、嫌なやつで登場して、徐々にちょっと抜けている可愛いやつという見せ方になっていったんです。そうしたら、「カモ平」とか、カモられているのにどや顔をするから「ドヤ平」と視聴者さんからあだ名がついて。公式でもハッシュタグとかで使われて、いじられてしまいました(笑)。

――とても愛されていますね。長谷川平蔵を演じた俳優さんと言えば、歌舞伎の方が多いですが……。

隼人:今までと違う角度というか、新しい平蔵像だから、いろいろなご指摘は歌舞伎界の方からもいただきまして。「なんだあれは、平蔵じゃない!」と(笑)。親戚やご自身が平蔵を演じられた方からもご指摘を……。

――ほぼ特定できてしまうんですが、これは書いてしまって大丈夫でしょうか!?

隼人:どうぞ書いてください(笑)。自分がやりたいというより、脚本、シナリオが新しい平蔵像を描きたいとと示してくれていて。史実の平蔵も火付盗賊改役になるまで「本所の(てつ)」と呼ばれていた放蕩な時代があったようです。今後は皆さんがご存じの平蔵になっていくと、楽しみにしていただけたら。

――隼人さんが長谷川平蔵を演じることに、特別な意味合いを感じた歌舞伎ファンは多かったと思います。ご自身は、どうお考えでしたか?

隼人:非常に縁を感じました。テレビシリーズの初代長谷川平蔵役は八代目松本幸四郎さん、今「鬼平犯科帳」で鬼平を演じている松本幸四郎兄さん、中村吉右衛門おじ様も僕は親戚ですし、萬屋錦之介は大叔父です。だから、怖さはありました。

――怖さですか。

隼人:やっぱりイメージがついているじゃないですか。鬼平と言えば渋い、かっこいい男、ダンディーっていう。でも、今回は吉原に入り浸っている若いころから描くわけで、今までにない平蔵です。かつら合わせにいったら普通だとつまらないからシケを出すことになりまして、さらにそのシケで遊んでほしいって(笑)。

――シケといえば、かつらから垂れるおくれ毛。歌舞伎では色気や憂いを出す重要なパーツですね。

隼人:こんなに反響があるとは思わなくて。先日ファンミーティングに出演した際もいじられてしまいました。「べらぼう」の舞台は吉原。人間の善悪だったり、陰と陽の部分が描かれる作品です。吉原って、今はきらびやかなイメージがあるかもしれませんが、あえてその闇の部分に焦点を当てている。どうしても、シリアスな、暗さを描いたシーンも多くなります。だからこそ、僕が演じる平蔵を見て、視聴者の方の箸休めになれたらと思って演じていました。

2025.06.27(金)
文=宇野なおみ
写真=山元茂樹