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新年の歌舞伎座で「大富豪同心」を演じることに

――今年1月の「壽初春大歌舞伎」では、NHK時代劇「大富豪同心」が歌舞伎化。主演をつとめられました。

隼人:大富豪同心の主人公も、ちょっと抜けていると言ったらよいのか、ほんわか、はんなりした優しい役です。少し今回の平蔵と似通った部分があるかもしれません。同心ではありますが、自分が物語を解決するわけではなく、周りの人に助けられながら色々な事件を解決していく役どころです。「中村隼人はこういう引き出ししかないのか」と思われているかもしれない……。

――きっと皆さん、隼人さんにそういう役を演じてもらいたくなってしまうのでしょう。2024年に尾上松也さんらと新春浅草歌舞伎を「一区切り」としてから、翌年に歌舞伎座の新年の幕開けで主演となりました。

隼人:まずは、自分の代表作である時代劇が歌舞伎になるという嬉しさがありました。実は、極めて珍しいことなんです。7月に幸四郎さんが鬼平犯科帳を歌舞伎座で演じられます。ただ、僕は、幸四郎さんより半年も早くやらせていただいたわけです(笑)。

――大富豪同心の演出・出演をされている、幸四郎さんに先駆けて。

隼人:もちろん、新作歌舞伎をたくさん上演してお客様に楽しんでいただこうという近年の方針のもと、僕が偶々できただけだとは思っています。それでも、やはり感慨深かったですね。まず歌舞伎座で、主演をさせていただくのは大きなことです。そして、1月に新作歌舞伎を演じることが、僕の中では非常に大きな意味を持ちました。

――その年の幕開けとなる公演です。

隼人:1月にかける演目は古典が中心で、この月だけをご覧になるお客様もいらっしゃるくらいです。約10年、浅草で古典歌舞伎を中心に演じてきた人間が、新作だけに出演するということは、お客様の目にどう映るのだろうという怖さは少しありました。ですが、今年は松竹130周年の年でもあります。盛大に祝う公演として、とにかく華やかに楽しんでいただこうという気持ちで挑みました。

――出演メンバーもとても豪華でした。

隼人:本当に豪華なメンバーでした。幸四郎兄さんは演出だけでなく、出演もしてくださいましたし、同世代の坂東巳之助さん、中村壱太郎さん、尾上右近くん、中村米吉くん。誰一人として役柄や出番の長さなど聞かずに、「隼人のだったら出るよ」と快諾してくれました。それが強く印象に残っています。

――夜の部最後の演目でしたよね。

隼人:最後にかかる演目を「打出し狂言」と言いまして、部の終わりの演目をそう呼びます。お客様が最後にご覧になる演目なので、作る側も気合が入ります。今回は幸四郎兄さんが演出に入ってくださったり、がっちり脇を固めていただいたり、本当に華やかな舞台にしていただきました。

2025.06.27(金)
文=宇野なおみ
写真=山元茂樹