「すん」と佇む毛玉取りのブラシを褒めまくる!

 えっ? と思った。毛玉取りのブラシ1本で、番組が成立するのか。果たして何分持たせられるんだ。画面に映る、台にちょこんとのせられたブラシは、すんとして、ただのなんてことない毛玉取りブラシに見える。細かいスペックとか、凝ったデザインとか、まるで感じさせない。

 けれどこれが、まったくの杞憂だったんである。プロは本当にすごい。

「見てください、こんなにたくさんの毛玉が、らくに取れるんです」
「本当にすばらしい、やっぱり高級品は違いますよ」
「手に持ったときのフィット感がなめらか、品物としても、シンプルでと~~~~っても美しいんです」
「毛質が安いものとはまったく違う、熟練の職人が選んだ、天然の毛です」

 こちらが息をつくまもなく、つぎつぎセールスポイントを畳みかけてくる。驚いて見入った。とにかく、肯定が細かい。細かく細かく肯定し、仕上げに丁寧に褒めて輝かせる。細分化された褒めの粒から、毛玉取りブラシが画面上でオーラを放ち出す。どんどん魅力的に見えてくる。

 そうか、テレビショッピングの世界は、はちゃめちゃに褒めるんだなと、あらためて気づかされた。その道で鍛え上げたMCのみなさんが、腕をふるって、褒めてはちぎって投げ、褒めてはちぎって投げまくる。画面のこちら側で私は、受け取って腕の中でびちびち跳ねる褒めから、商品の優秀さをこれでもかと解らされる。

 このテレビショッピングの華麗な手つきから、褒めることの真髄や本質を吸収することはできないだろうか。それからしばらく、ちょこちょこ観てみるようにした。

 小型の送風機は、性能ばかりではなく、機体の色をも褒める手腕にうなった。いわく、洗練されたホワイトと、モダンなブラック、だ。私が「ああ、白いなあ、黒いなあ」と、オセロや碁石のようにとらえている間に、テレビショッピングは止まらずずっと先まで価値を届かせる。

 今年は新色が加わったそうで、「ついにスタイリッシュな新色、グレージュが初登場です! ナチュラルな色あいが、ご自宅を北欧風に演出いたします」と、色の新登場でここまで気持ちが高められるものかと思わされた。グレージュというと、ベージュ混じりのグレーのことだ。くすんだ風合いがある。そこを勢いで北欧風と言っていく、断言が心を強くしてくれる。

 さすがにこれは……と、つい不安視した、一斗缶入りのおかきも元気いっぱい褒められて輝いていた。さんざん味や食感に言及したあとには、ダメ押しで「見てください! こんなにたーくさん入ってるんです。すごいっ!」と、量にまで褒めの手を及ばせる。ぐいぐいぐいと、攻めの褒めの怒涛の勢いで、テレビの画面がふくらむようだ。

2025.06.11(水)
文=古賀及子