映画としての基本的な面白さに加えて、『教皇選挙』には本作にしかない大きな魅力がある。システィーナ礼拝堂を完全再現したセットをはじめとしたゴージャスな背景美術と、その美術をビビッドに捉えたいくつものショットだ。
本作の指揮を執ったのは、2022年度アカデミー賞国際長編映画賞ほか4冠を達成した『西部戦線異状なし』で第一次世界大戦の過酷な戦場を仮借なく再現したエドワード・ベルガー監督だが、その巧みな絵作りは本作においても冴えわたっている。

ひとつひとつのシーンがまるで絵画のように印象深く、映画の物語に意味を持たせている。美しい美術とシャープで計算された撮影が組み合わさることで、ショット一つ一つに意味が付与され、観客はセリフの向こう側にある映画のメッセージを自然と読み取ることができる。

今日的なテーマである「透明化された女性たち」
そして、本作の優れた点は、それらの映画的な達成が映画のテーマを自然と納得させていく点だろう。ベルガー監督はこの映画の重要な要素として、「世界最古の家父長制、つまり伝統的に女性が参画できない政治制度を描いていること」と語っている。
枢機卿達の権力争いの一方で描かれるのは、教会を支えるシスターたちの働きであり、彼女たちの働きがいかに透明化されているかをこの映画はあらわにしていく。家父長制組織の欺瞞。そのテーマはカトリックやキリスト教、あるいは宗教全般になじみのない観客にとっても決して無関係ではないもので、遠い世界の出来事であったはずのコンクラーベは、映画を見終えた観客にとっては、今日的な、当事者としての問題をはらんだ出来事として胸に迫るのだ。

以上の要素を照らし合わせると、『教皇選挙』のヒットはある意味では必然だったとも言える。しかし、この映画としての美点、娯楽として完成された設計は、映画の結末を合わせて考えると、どこか居心地の悪い後味を残す。
2025.06.06(金)
文=山田集佳