アカデミー賞が発表され、注目作が次々と公開される3月。その中でも見逃せない作品とは……? 映画史・時代劇研究家の春日太一が推薦する“珠玉の3作”はこちら!
◆◆◆
“秘められた奥の院”を題材にした『教皇選挙』
映画を観る大きな動機の一つは、「通常では絶対に知り得ないことを覗き見ることができる」という下世話な好奇心を満たすため――というのは、多くの方が抱いていることと思う。そうした点において、ローマ教皇を選定する選挙=コンクラーベという究極の「秘められた奥の院」を題材にした段階で、この映画はある程度の成功は約束されたといえる。

もちろん、その内容も素晴らしい。急死した教皇の後継をめぐり複数の枢機卿が候補として浮上する。融通が利かない理想主義者、言動に差別的な意識が見受けられる保守派、過去の言動に問題を抱えるアフリカ系、そしてスタンス的にはバランスがとれているものの不正の疑いがある野心家――。それぞれに魅力と問題を抱えており一長一短。そのため、自分が投票する側だったら誰に入れるだろうと考えながら観ても面白い。また、各勢力による多数派工作のためのロビー活動の様子もスリリング。キャラクター描写、ビックリするラストに至るまで先の読めないプロット、そのラストに込められた大胆なメッセージ性、いずれも秀逸で今年のアカデミー賞の脚色賞を獲得したのも納得できる。

俳優たちも良い味を出している。当人は引退するつもりでいたのが、その人格が評価されて候補の一人にまつり上げられていく主人公を演じるレイフ・ファインズは、抑えた演技で狂言回しとしての難しい役柄をやり遂げた。
そして圧巻だったのは野心家の枢機卿を演じたジョン・リスゴーだ。憎々しく、太々しく、それでいてシャアシャアと悪事を誤魔化そうとする様は、この俳優だからこその迫力。それでいて終盤になって情勢の変化とともに徐々に崩れていく姿がステキで、最も惹きつけられた。彼がアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされなかったのは、残念でならないほどの名演をしている。
『教皇選挙』
監督:エドワード・ベルガー(『西部戦線異状なし』)/脚本:ピーター・ストローハン(『裏切りのサーカス』)/原作:ロバート・ハリス著「CONCLAVE」
/出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ/© 2024 Conclave Distribution, LLC./2024年/アメリカ・イギリス/英語・ラテン語・イタリア語/カラー/スコープサイズ/120分/原題:CONCLAVE/字幕翻訳:渡邉貴子/映倫:G/公開:3月20日(木・祝)公開/公式サイト:https://cclv-movie.jp
2025.03.13(木)
文=春日太一