『ミッキー17』ポン・ジュノ監督のSFハリウッド大作

 アカデミー賞といえば、2020年の第92回アカデミー賞において『パラサイト 半地下の家族』は非英語作品で初めての作品賞受賞を果たしている。それを撮ったポン・ジュノ監督の次なる映画となるのが、本作だ。今度はワーナー・ブラザース配給の、堂々たるハリウッド大作である。予算規模もこれまでの監督作品より遥かに大きい。

 こうした場合、力が入り過ぎて失敗作になってしまうケースも少なくはない。観る前は本作も、設定自体はかなり凝ったSF的なものになっているため、複雑になり過ぎたり難解なものになったりして、自己満足気味な失敗作に終わる心配があった。が、その心配は無用だった。

 文字にするとかえってわかりにくくなる危険性があるので、設定や展開についてはあえて説明はしない。ただ言えるのは、事前に本作の情報に接し、「??」となって鑑賞を敬遠するつもりだった方にも、「全く問題なく楽しむことができる」ということだ。というのも、そうした一見すると複雑極まりない設定が全く気にならずに頭に入ってくるほど、ストーリーテリングが巧みなのである。

 全体を貫くスピーディかつユーモラスな語り口。一つの失敗や選択の誤りで主人公のミッキー(ロバート・パティンソン)の存在が消えることになりかねないサスペンス性。緊張感とコミカルさを同時にもたらす、横暴かつ無知蒙昧な権力者(マーク・ラファロ)のキャラクター描写。そして随所にちりばめられたさまざまな社会問題への風刺――。いずれもポン・ジュノ監督らしい躍動感に満ちており、ハリウッドにあっても自分の培ってきた演出スタイルを貫いたことがよくわかる。

 タイトルについては序盤のかなり早い段階でその意味はわかるようになっている。だが、ラストにその奥に込められた想いが伝わる展開になっており、最後まで隙なく練られた構成には「さすが」というより他になかった。

ミッキー17

 © 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved./公開:3月28日(金) 4D/Dolby Cinema/ScreenX/IMAX 同時公開/配給:ワーナー・ブラザース映画

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2025.03.13(木)
文=春日太一