人間関係の機微や出世にまつわる“あるある”
こうした、日常生活にも大いにみられる人間関係の機微や出世にまつわる“あるある”が、『教皇選挙』にはちりばめられている。
本作の視点人物となるトマス・ローレンス枢機卿(演:レイフ・ファインズ)はそんな個性的な面々の中でもバランス感覚に優れる枢機卿として描かれるが、個性的で我が強い候補者の中にあっては右往左往するばかりだ。彼のまとう中間管理職的な悲哀は、劇場に足を運ぶ現役世代には大いに共感できる造形だろう。

『教皇選挙』は欧米では昨年の10月~11月に公開されたが、当初から「キャラクター推し」のファンアートがSNS上では流行していたことも、本作のキャラクターの魅力の大きさを証明していると言えるだろう。
何よりも「話が分かりやすく、面白い」
また、そんな魅力的なキャラクターが織りなすコンクラーベの政治的駆け引きが、複雑ながらも非常にわかりやすく描かれている点も、本作が多くの人を引き付ける理由となっている。
映画が始まるとすぐに次期教皇として有力視される枢機卿のうち数名がしっかりと紹介され、それぞれの特徴や欠点がわかりやすく説明される。観客が枢機卿のキャラクターをある程度把握した時点で、最有力とされる枢機卿に関する事件が起こり、選挙の勢力図が二転三転する。コンクラーベに参加している枢機卿たちが「今、どんな論点について議論しているのか」「枢機卿にふさわしいのはどんな人物なのか」という議論点が常に明確なまま進行し、なおかつその議論が映画のテーマを徐々に明らかにしていく。

分かりやすさと娯楽性。そして、制作陣が描こうとするテーマが過不足なく整理されて展開していく脚本は 、『裏切りのサーカス』など優れたサスペンスを生み出した脚本家のピーター・ストローハンの手腕によるところが大きい。今年度のアカデミー賞で脚色賞を受賞したことからもわかるように、本作はまず何よりも「話が分かりやすく、面白い」映画なのだ。
2025.06.06(金)
文=山田集佳