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古着屋の手伝いにバー経営…秒刻みの忙しさの日々

浅野 彼との毎日は、とにかく秒刻みの忙しさだった。その人は、何十軒も店を持ってたんだけど、毎日、朝からそれらを一軒一軒回るわけ。私は、運転手として同行してたから、一日中動き回ってたのよ。

近田 結構なハードスケジュールだねえ。

浅野 さらには、アメリカとかイタリアとか、海外にもしょっちゅう買い付けに行ってたからね。彼は、古着の仕入れに赴いたロサンゼルスから帰ってきたその足で、スポーツジムに直行しちゃうような人だった。

近田 それだけエネルギッシュだからこそ、成功を収めたんだろうね。

浅野 その傍ら、私は、下北沢でバーを始めたのよ。

近田 彼に負けず劣らず活動的だよ。場所はどこ?

浅野 鈴なり横丁の向かいにあった小さな公園の隣だった。店の名前は「ベベ」。フランス語で赤ちゃんっていう意味ね。そこは流行ったのよ。お客さんが中に入りきらない時は、外にまで溢れて飲んだりもしててさ。結構有名なミュージシャンも来てくれて、店の前でギター弾いてたこともあったよ。

近田 バーをやってたっていうけど、順子さんって、下戸なんじゃなかった?

浅野 そうなのよ。だけど、カウンターの内側に入ると、なぜか飲めちゃうの(笑)。

近田 不思議だねえ(笑)。その彼との生活は、いつまで続いたわけ?

2025.06.05(木)
文=下井草 秀
撮影=佐藤 亘、平松 市聖