――と、いうと?

古舘 レコード会社からはプッシュしてもらえていたのに、セールスの結果が出なかった。それで急激に焦り出して、「俺、才能ないんじゃないか?」、「結果、残さなきゃ!」みたいな強迫観念にブワーッと襲われちゃって。僕、レコード会社の人からは、「ミスチルみたいになってほしい」と言われていたんですよ(苦笑)。で、自分もその言葉を鵜呑みにしちゃって、「ミスチルみたいなヒット曲を作らなきゃ」と必死になって。でも、当時、僕が書いていた歌詞は、「始発待ちしてたギャルに森鴎外の『舞姫』をススメようと渡したら見事に断られた」とか、「(映画館の席で)前も隣もイカれた痛い男女で大事な侘び寂び全部がいちゃつく音で消えた」とか、「映画館の暗闇で三島の『金閣寺』を落ち着くために開いたら燃やせと書いてある」とか、自分でもゾッとするぐらいミスチルとは真逆なものだったんですよ。

――あまりに焦り過ぎて、わけがわからなくなっちゃったんでしょうか?

古舘 ほとんど頭がおかしくなりかけていましたね。そこから、「俺、何がしたいんだ?」、「何で音楽を志したんだっけ?」、「幼馴染との関係性がビジネスみたくなるのはどうなんだ?」と、どんどん思考が迷子になっちゃって。音楽や本に対しても、昔みたいな純粋な気持ちで向き合えなくなった。何を読んでも聴いても、「どうして僕はこの人たちみたく結果を出せないんだ?」と思うようになってしまいました。

「自分を否定し続けることは、お前のことを好きな俺や周囲の人やファンの人たちの価値観まで丸ごと否定するんだぞ?」

――結局、The SALOVERSは2015年に無期限活動休止となりました。

古舘 僕、The SALOVERSで、若くして売れたかったんです。デビュー直後は、「やっぱり自分は同級生たちとは違うんだ」みたいな異端児キャラを気取って酔いしれていたのに、結局、夢は叶わなくて、同級生たちが就職して社会に貢献し始める頃、僕はバンドが終わってしまった。「大手を振っていたのに、これかよ」と情けなくなりました。ただ、負け惜しみかもしれないけど、もし、あそこでバーンと売れていたら、僕はたぶん今頃調子に乗って音楽に飽きていたか、もしくは不祥事でも起こしてとっくに消えていたんじゃないかと思います。

2025.04.23(水)
文=内田正樹