この記事の連載

 Amazonオーディブル(以下、Audible)での朗読を行った俳優の小林聡美さん。レイチェル・カーソンの遺作『センス・オブ・ワンダー』の朗読を通じて感じた「声で読む/聴く」ことの面白さ、この先についての思い、新たなチャレンジへの意識についてお話しいただきました。


声に出して読むことの難しさ

――小林さんはこれまでも舞台などで朗読を経験されていますが、今回Audible用にレイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』を朗読してみて、いかがでしたか?

小林 過去に何度か物語を読むというのはさせていただいていますが、そんなに多くはないと思います。物語を読むのは、ナレーションとはまた少し違って「表現」でもあるので、ちょっと緊張しますね。『センス・オブ・ワンダー』は小説ではなく、一人語りの作品だったので、もしかしたら朗読経験の少ない私にも入りやすい作品だったかもしれません。

――声に出して読んでみることで、以前自分で黙読されたときとの手ざわりの違いは感じられましたか?

小林 翻訳文って、けっこう一文が長いんですよね。どこで息を吸うかのタイミングをはかるのが難関で(笑)。

――翻訳ものならではの悩みですね。朗読するうえで気をつけたことはありますか?

小林 聴く人に作品をちゃんと届けたいなという思いがあったので、作品の雰囲気を損なわない読み方とか声のトーンは気をつけました。それと、『センス・オブ・ワンダー』には自然のことがふんだんに描写されているんです。その景色や、自然に触れたときの感触を書いた文章を読む時は、やっぱり耳からちゃんとそれが伝わるように、ということは意識しました。伝えるためには自分の中でもちゃんと具体的にイメージをする必要があるので、一つひとつの描写を思い浮かべながら読むように気をつけました。

書く文章と読む文章の違い

――Audibleをはじめとする朗読を聴く機会はこれまでありましたか?

小林 あります。録音されたもの、CDなどを車の中で聞いたりすることは時々あります。

――どんなものを?

小林 人が話しているものでよく聴くのは……、朗読とは違うけど、落語を聴くのは好きですね。それから、児童文学。昔リリースされたような、俳優さんが読んでいる児童文学を聞きながら運転するのは好きです。好きな方の声を聞きながら運転するとすごくリラックスできるので。ただ、長距離を運転するときは物語を丸ごと聞けるんですが、短い距離だといいところで「話の途中なのにもう運転終わっちゃった」となることもあります(笑)。

――ご自身のエッセイもAudibleになっていますよね? それは聞かれましたか?

小林 ナレーターの方の声や朗読の雰囲気のチェックはさせていただきました。エッセイって、声に出すことを考えて書いていないですよね。だからいざ声に出して読まれたものを聴くと、リズムが不思議になっているところがあったりして……。カッコとかね、文章で読むときは心の声みたいな感じで効果的に使えたりするのでつい使ってしまうけど、それを耳で聴くとなると、ちょっと気になる。今回『センス・オブ・ワンダー』で読む側にまわったときも、植物の名前などを和名で説明する部分のリズムなど、なかなか難しいです。

―小林さんが今後ご自分で書かれたエッセイを読むことも?

小林 それはないと思います。書くことと演じることって、私の中では、別のこととして捉えているところがあって。だから、書く自分と演じる自分が合わさってしまうのは、ちょっと気持ち悪い。他の方に読んでいただくのはとってもありがたいんですけどね。

2025.04.22(火)
文=釣木文恵
写真=杉山拓也
ヘアメイク=尾花 ケイコ(PINKSSION)
スタイリスト=三好 マリコ